恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「すみません……。お言葉に甘えてもいいでしょうか」
「もちろん。責任を持って送り届けるよ」

 社用車でレストランまで行けると思うと、針ヶ谷さんが病欠だと聞いてから張り詰めていた気持ちが、少し緩む。

 真城さんの前では大丈夫だと突っ張っておきながら、本当はちゃんと間に合うかどうか、自分でも少し不安だったのだと思う。

 三人姉弟の長女として、ふたりの弟よりしっかりしなくてはと思いながら育ったからだろうか。私は誰かに頼るのが苦手で、だから何事も自分で解決できるように、できるだけ周囲に迷惑をかけないように振舞う癖がある。

 今回の件もそうしたかったけれど、真城さんの言葉には有無を言わせない説得力と、優しさがあった。

 無理にでも電車で行こうとしていたのは、私のつまらない意地。ただの自己満足でしかなかったのだと、ようやく気が付いた。


 時間に余裕を持ってレストランに到着し、真城さんと別れる。

 店ではオーナー兼料理長の男性と、若い板前さんがふたり、私を出迎えてくれた。

 カウンターとテーブル席を合わせ二十席の小ぢんまりとした店だが、和食とワインのペアリングが話題を呼んで予約は二カ月先までいっぱい。定休日には料理長自らが市場や契約農家のもとへ足を運び、素材を厳選しているそう。

 そんな忙しい合間を縫って、私が勧めるワインを試してくれようとしているのだ。

 絶対に無駄な時間にはさせない……。

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