恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
気合十分に挨拶し、さっそくクーラーボックスを開ける。
針ヶ谷さんに手伝ってもらおうと思っていたグラスの用意などは板前さんが手を貸してくれ、最初こそ遠慮したけれど、お言葉に甘えることにした。
事前に料理長から『店のグラスで味を見たい』と申し出があり、グラスは貸してもらうことになっていたので、素人の私が扱うより店のスタッフに任せた方が安全だ。
こうして彼らの厚意を素直に受け取ってスムーズに準備が進められたのは、たぶん直前に真城さんとのやり取りがあったからだろう。
だからといって私の性格が急に変わったわけではないし、なんでもかんでも人に甘えるのがいいとはもちろん思わない。
でも、差し伸べられた手を取る勇気も、時には必要なんだよね、きっと……。
板前さん達と一緒になって試飲会をの準備を進めながら、頭の片隅でぼんやりそう思った。
「それでは、本日はお時間をいただきありがとうございました」
試飲会の後、料理長は丁寧に店の外まで見送りしてくれた。これまで気難しい顔ばかりしていたのに、今ではその欠片もない。
その理由は、料理長がこちらの想定以上にワインを気に入ってくれたからだった。
試飲会の最中には『こりゃ、一本取られたな……』という嬉しいひと言もあった。