恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 ステーキハウスに到着すると、肉の焼ける芳ばしい香りがした。

 ひとりだとなかなか外食、しかもステーキを食べよう!という気分にはならないので、店に漂う肉々しい香りを嗅いだだけで、鬱々していた気分が少しましになる。

 いっそ飲み会の空気を読むことは放棄して、肉を食べることに集中しようか……。

 投げやりなことを思いつつ、店員の案内に従って個室に移動する。

 ほの暗い間接照明に照らされた部屋は落ち着いた雰囲気で、五名ずつ向き合う形に椅子が設置された長テーブル、皿やナプキンが綺麗にセッティングされていた。

 まずは浅井部長を上座に通し、各々適当な席に着く。

 すっかり意気投合したらしい針ヶ谷さんと女性陣がひと固まりになって座ったため、彼らから一番遠い端の席を選ぶ。隣には真城さんが座った。

「あの、少し離れた方がよくないですか? なにを噂されるかわかりません」
「どうせ、一緒に帰ったらその後でさんざん言われるから同じだよ。それとも、他の人と話したい?」
「いえ、別にそういうわけでは……」

 私はわりと公私の区別をハッキリしているので、会社の中にこういう時和気あいあいと話せるような親しい相手はいない。

 寂しいヤツだと思う人もいるのかもしれないけれど、あまり馴れ合ってしまうと仕事がやりにくくなる。

 学生時代からの友人ならいるし、わざわざ会社の中で友達を探そうとは思わないのだ。

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