恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 離れた席にいた女性社員のひとりが、しびれを切らしたように彼を呼びに来た。

 曖昧な返事をした真城さんはこちらをちらり一瞥したけれど、私は『行ってらっしゃい』と伝えるように手を振った。

 いい人モードを解除した真城さんの隣にいるのはどうも心臓に悪いと思っていたところだったのだ。

 ひとりになってホッとした直後、誰かが真城さんの座っていた椅子を引いた。

 まさか、針ヶ谷さんじゃないよね……?

 おそるおそる横を向くと、そこには浅井部長の柔和な笑顔があった。

「神崎さん、ちょっとだけ隣いいですか?」
「部長! もちろんです。ちょっとと言わず、ゆっくりなさってください」

 上司の登場で一気に酔いが覚め、なんとなく背筋を伸ばした。

「ありがとう。とりあえず、乾杯しましょうか」

 部長が持参したらしい自分のグラスを軽く持ち上げたので、私も慌ててグラスを持ち、軽く合わせる。

「実は、神崎さんに折り入ってお願いがありまして」
「お願い? なんでしょうか」

 これは、部長お得意の〝至極申し訳なさそうに仕事頼む攻撃〟では……。

 前回呼び出された時は海外営業部への異動というグッドニュースだったけれど、今回はそうでない気がしてちょっと身構える。

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