恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「今の資料室の状況をご存じですか?」
「資料室? そういえば……異動してからはまだ一度も使ってません」
今月の初めに異動したばかりで、既存の取引先への対応は大部分が真城さんに頼りきりだし、私は彼の隣で挨拶をするくらい。
また、今は実務的なことより海外営業におけるマーケティング戦略について真城さんに指導を受けている最中なので、自分で資料室へ出向く必要はとくになかった。
「国産商品のカタログや、これまでに作成した商品情報の一覧などが並んでいる一角があるでしょう? 今、実はそこがめちゃくちゃになっていまして……」
「め、めちゃくちゃですか? でも、私以外にあそこを使う人はあまりいなかったんじゃ……?」
「はい。みんな基本的にはPC内のデータを使用していました。しかし、針ヶ谷くんがつい最近データを丸ごと削除してしまいまして……」
「ええっ!?」
部長が困り果てたように眉を下げて苦笑する。
あまりの事態に絶句していると、部長は針ヶ谷さんがこちらに注意を払っていないのを確認してから言葉を継いだ。
「もちろん、専門業者にデータ復旧を依頼しています。しかし年度が替わったばかりの今、どこの企業でも色々と似たトラブルがあるらしく、実際に復旧作業に取り掛かれるまで二週間程度かかるそうです。間にゴールデンウィークを挟むので、もしかしたら対応が連休明けになるかもしれません」
「連休明け……それは困りましたね」