恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「すみません、やりづらいですよね……私、できるだけ存在感を消して生活しますので」

 真城さんは一瞬キョトンとした後、すぐに申し訳なさそうな顔になる。

「……ごめん、もしかして俺が引っ越してきて迷惑だった?」
「いえ! 決してそういう意味では……!」

 でも、今の言い方はちょっと露骨すぎたかもしれない。気を悪くされても仕方がないと反省する。

「きみが同じマンションに住んでいることは口外しないから心配しないで。それと、女性のひとり暮らしでは困ったこともあるかもしれないから、なにかあったら頼ってくれていいから」

 屈託のない笑顔を向けられ、無意識にこちらも笑顔になった。おそらく真城さんは根っからの人たらしなのだろうなと思う。

 営業成績のよさも、その性格が関係しているのかもしれない。たとえ社交辞令とわかっていても、笑顔とともに優しいひと言を添えられて、嫌な気分になる人はいない。

「ありがとうございます。私も真城さんのことは口外しませんのでご安心ください」
「よし、交渉成立。……そうだ、ちょっと待ってて」

 真城さんがなにか思い出したように自分の部屋へ戻っていく。

 素早い身のこなしはプライベートでも同じなんだなと感心しているうちに、作業で開け放たれたままの玄関から再び彼が出てくる。その手に小さな紙袋を提げて。

「これ、引っ越しの挨拶にと思って。オーガニックの洗剤なんだけど、一回分ずつ個包装になっているから、使いやすいと思う」

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