恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
白地に黒の縁取りがおしゃれな紙袋、そして個包装の洗剤という品物のチョイスも、さすがは真城さんと言いたくなるセンスだ。
洗剤にとくにこだわりのない私としては、素直に嬉しくなる。
「お気遣いありがとうございます。使うのが楽しみです」
「それじゃ、お隣さんとして今後ともよろしく。貴重な休みの日に時間を取らせて悪かった」
「いえ、とんでもないです。お引越し頑張ってください」
「ありがとう」
最後に向けられた微笑みは眩いオーラを放っていて、ついぼうっとしそうになる自分を慌ててたしなめる。
独身生活を気ままに謳歌するために引っ越したのに、なんだかすごい人と隣人になってしまった。
彼には迷惑じゃないと言ったけど、同じマンションに同僚がいるのってやっぱりなんとなく気まずいよね……。
完全に気後れしつつ家に帰り、玄関で靴を脱ぐ。その時、シューズクロークの扉についた鏡の自分と目が合った。
「あ」
ランニング中は知り合いにも会わないしどうせ汗をかくだろうと、すっぴんに日焼け止めを塗っただけのさっぱりした顔。
私、この状態で真城さんと話していたのか……。
家族や恋人ほど親しいか、逆にまったくの他人なら構わないけれど、会社でエリートと噂されている先輩に無防備な姿を見られたのは、なんとなく不覚だ。
しかし真城さんは隣に住んでいるわけだから、こんなふうに偶然顔を合わせることも今後増えていくわけで……。
平穏な生活にちょっとだけ不安要素が加わった気がして、思わずため息をつく。
だからって真城さんが悪いわけじゃないし、普段通りの生活を続けるしかない。
彼だって今日は引っ越し初日だから声をかけてきただけで、普段から頻繁に交流するわけではないのだ。あまり気にしないことにしよう。
悶々とした気持ちに区切りをつけると、私は汗を流すためにバスルームへ向かった。