恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
怖さが消えたわけではないけれど、誰かがそばにいてくれるだけで、手足が思った通りに動く。
エレベーターに乗り込んだ頃には私も少し落ち着いていて、ボタンの前に立つ彼の背中にそっと声をかけた。
「真城さん、すみません……。お出かけしようとしていたところですよね。私、この先はもうひとりで部屋に帰れますから、エレベーターが着いたらまたすぐ下に降りてください」
「お出かけってほどのことじゃないよ。可燃ゴミの袋が切れてたのを忘れてて、買いに行こうとしてただけ」
「そうでしたか……。だったら、うちの袋を差し上げますね。先週買ったばかりでまだたくさんありますから」
「ありがとう。なんか、初めてお隣さんっぽい会話した気がするな」
「……ですね」
クスッと笑う彼につられ、私の口元も緩む。真城さんと話していると、あんなに自分を支配していた恐怖が薄らいでいくのがわかった。
「でも、そんなことより着替えるかシャワーが先だろ。俺のゴミ袋問題なんて気にせず、早く体を温めないと」
真城さんが私の濡れた服を見て心配そうな顔をした。言われてみれば全身に服が張り付いていて、自分のみっともない姿が恥ずかしくなる。
「でも、真城さんが困っていたら助ける約束ですし……」
「確かにそうだけど、こういう時は急がなくていいよ。俺ならいつだって隣にいるんだから」
そんな言葉と共に安心させるような笑みを向けられ、トクンと胸が鳴った。