孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
そんな時、ギャラリーの隅で気配を決していた私に、老夫婦が話しかけてきた。
七十代ほどだろうか、ふたりとも小綺麗でオシャレな雰囲気。代官山を歩いていても様になる老夫婦だ。
「あちらの絵、購入していきたいのだけど」
「あ、はい。どちらを……?」
女性が案内していった先が、自分の作品で目を疑う。
私が展示させてもらっているうち、朝焼けと飛び立つ飛行機を描いた作品に女性は指し示した。
「この絵、ぜひうちに飾りたいと思って。一目惚れしたの」
にこやかに女性は私の描いた作品を見つめる。
自分の描いてきた絵を誰かに気に入ってもらう。一目惚れなんて言われたこと生まれて初めてのこと。
しかも、購入したいだなんて……。
「ありがとうございます。この絵、私が描いた作品なんです」
作者だと伝えると、老夫婦の表情がぱっと明るくなる。
「あなたが描いた作品なのね!」
「はい。気に入っていただけるなんて光栄です。初めての経験で」
「ファンになったわ。もっと作品を見てみたい」
嬉しい言葉をたくさんかけてもらい、目頭が熱くなる。初めてのファンを前に胸がいっぱいだった。