孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
夕方十六時を回った頃。
ひとりギャラリー内をうろうろと見回っていた時、ふと、正面のガラス張りから見える前の通りに目が留まる。
淡いブルーのカッターシャツにブラックデニム。リュックにスニーカーというカジュアルな装いをも見事に着こなすスタイルの良さと、個展の看板を眺めるその端整な顔にぎくりとして思わず身を隠す。
え……? 他人の、空似?
そう思うしかないくらい、こんな場所でばったり会うはずがない人物に見えてしまった。
普段は制服の姿しか見たことがないし、私服のイメージは全く湧かない。
でも、猛烈に高坂機長に似ている。
いや、まさか。そんなはずはないだろうと再び表を覗いてみると、看板を眺めていた姿が入り口を入って来るのが目に飛び込む。
間違いなく本人だと確定で、咄嗟にくるりと背を向けた。
なんで、こんなところに高坂機長がいるの? たまたま偶然立ち寄ったの?
別になにか悪いことをしているわけではないし、顔を隠す必要はない。
でもなんとなく、咄嗟に気づかれたくないと思ってしまった。
とはいえ、彼が私に気づく可能性は極めて低い。
空港内ですれ違えば親会社のパイロットということもあり、グランドスタッフはみんな会釈をする。
だからといって直接話したこともなければ、業務で深く関わることもない。
私のほうは高坂機長が有名人だから知っているけれど、向こうはたぶん私を知らないだろう。
冷静に考えて、自意識過剰だと思い直す。
顔を見せたところでなんの問題もないはずだ。ここは静かにギャラリーを出ていくのを待てばいい。
「あの、すみません」