悪役令嬢に剣と花束を


 トレンチノ伯爵邸に押し入ったのは日が暮れてすぐ。駆けつけた兵士や騎士を気絶させたりして無力化させながら、レイシアの寝室へ辿りついた。


 部屋の施錠された扉を無理やり蹴破ると炎の魔法を飛ばしてきたが、廊下でたまたま遭遇した男爵を人質代わりに連れてきていたので、男爵を盾にした。


 男爵をレイシアの方へ投げて怯ませたところで、一瞬で背後に回ってレイシアを気絶させた。すぐに彼女を両手で抱き、窓を割り2階から飛び降り、屋敷を離れた。


 約10日後、レイシアを目隠し、口輪、手足を強固に縛ったまま隣国へとやってきた。


 国境を越えて、すぐ近くにある村で森のなかにある作業小屋を借りてレイシアを中に閉じ込めて、ボクは準備するためにあちこち歩きまわった。


 その夜、彼女を椅子に縛り付けて、目隠しを外した。


 ボクの手にはあるモノ(・・)が握られていて、レイシアをそれをみて興奮して口輪をしたまま何かを叫んでいるが、ボクにはなにを言っているかは聞き取れない。


「大好きだよ、さようなら(・・・・・)


 本当はこんなことしたくなかった。でも愛するレイシアのためにボクはやらなければいけなかった。


 ゴメンね。おやすみなさい……。






 








 ──目が覚めたら、知らない部屋で寝ていた。

 
 カラダを起こし、ベッドから立ち上がろうとしたら、めまいがしてもう一度ベッドへ座る。


「気分はどうだい?」


 ミカ・ローレンジュ──私の愛するひと。


 ミカが汲んできた水桶をベッドのそばにある小卓へ置いて、私の額に触れる。


「熱は引いたみたい」


 3日も私は高熱を出して倒れていたそうだ。それよりもポッカリと記憶が抜け落ちていて、この場所がどこなのか、なぜミカが自分のそばにいるのかわからない。


「キミは長い間、悪い夢を見ていたんだ」


 どうやら、この異世界にやってきた時に憑依した元人格、悪役令嬢レイシアに戻ってしまっていたらしい。でもどうやって私を助けたのだろう?


「前に教えてもらったコレさ」


 ベッドの奥、窓側に活けてある色鮮やかで燃えるような赤いマルケスの花。この花は根っこが繋がったままなら問題ないが、花束のように茎から切ってしまうと花粉を放ち、吸い込んだものは幻覚作用が働く。一輪くらいなら少しふらつく程度だが、大量のマルケスの花は精神に異常をきたしたり、場合によって心が壊れたりする危険がある。


「ってことは……」

「うん、君のもう一つの人格を殺した(・・・)


 そっか、元人格の悪役令嬢レイシアが壊れたのでこうして再び私がカラダを取り戻せたってわけなんだ。


「レイシア」

「うん?」


 ミカがいつの間にか背中になにかを隠していてそれを私の前に差し出した。


 切られていないマルケスの花が2本。花ことばは1本なら愛の告白、しかし2本なら違う意味になる。


 ──永遠の愛。


 マルケスの花が咲いている小さな鉢を受け取ると同時に両手に彼の手が覆い被さる。


「いつまでもキミを守る剣でいたい」


 私はひとつ、咳払いをして笑顔で答えた。


「私もアナタにいつまでも愛でられる花でいたいわ」


 窓の向こうにある丸い月と星空の淡い光が部屋の床でひとつになった影を優しく照らし出していた。








 ─ fin ─







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