早河シリーズ第六幕【砂時計】
早河は西麻布のバーの扉を開けてカウンター席に座った。開店前のバーは人の気配はなく、紫と青色の照明だけが妖しげに灯る。
この店にバーテンとして潜り込ませている早河の協力者の高木涼馬は、早河に温かい烏龍茶を提供した。早河は烏龍茶の登場に苦笑してカップに注がれたホットの烏龍茶に口をつける。
『バーで烏龍茶とは相変わらず健康志向だな』
『早河さんも酒と煙草はほどほどにしてくださいよ。今はまだいいけど10年後に絶対ガタが来ますよー』
高木は童顔の可愛らしい顔つきをしていてもれっきとした28歳、矢野一輝の高校時代の悪友だ。
矢野と親しく付き合うようになってからは矢野の友達の高木との絡みも増え、彼とも十年来の付き合いだ。高木も早河の探偵業の手助けをしてくれている。
『わかってるって。それで、昨夜ここに来たのはこの男で間違いないな?』
早河は高木に一枚の写真を見せる。高木は写真をじっと見て頷いた。
『間違いないです。昨日来たのはこの男です。来店は22時過ぎだったかな、1時間くらい居て、女と一緒でした』
『連れの女の特徴は?』
『歳は30前後、髪型は肩よりもちょっと下の長さの黒髪で悲壮感漂う美人。サスペンスドラマで夫を殺された未亡人って感じの』
高木の説明を早河は手帳にどう書き記すか思案した。とりあえず、三十代女、肩より少し下の長さの黒髪、イメージは悲壮感、未亡人、と殴り書きする。
『お前の説明だとイマイチわからないが、二人の仲はどんな風だった? 仕事仲間か友達か恋人か』
『恋人や友達って雰囲気じゃなかったね。親しいようで微妙な距離感があったし……。そこの席に座っていたんですよ』
高木はカウンターの内側から早河の背後を指差す。振り向いた早河は無人の座席を眺めた。
紫と青色に照らされた店内に並ぶ黒いテーブルと椅子。昨夜その場所に座っていた男と女を想像する。
『二人の関係を強いて言うなら仕事仲間がしっくりきますね』
『仕事仲間ね。ちなみに男と一緒だったのはこの女だったか? これは昔の写真だから今とは容姿が異なるだろうが……カオスのクイーンだ』
早河は犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央の写真も見せる。なぎさが所持していた高校時代の莉央の写真だ。今は25歳となっている莉央の現在の姿は早河もなぎさも知らない。
『うわっ。めっちゃ美人。これがクイーンかぁ。でも男といたのはこの女じゃないですよ。こんな美人がいたら店が騒ぎになってますって』
『そうか……』
『そういえば、キングの貴嶋の写真って持ってないんですか? 高校の時のヤツとか。俺も一輝も貴嶋の顔は知らないんですよね』
莉央の写真を早河に返した高木はついでに空になった烏龍茶のカップを下げる。
『貴嶋の写真はないんだ。高校時代に貴嶋とツーショットなんか撮ったこともなかったし、あいつは卒業までいなかったから卒アルにも写ってねぇしな……』
『じゃあ早河さんしか貴嶋の顔がわからないってことか。考えると恐ろしいな。貴嶋と道ですれ違ってもわからねぇじゃん。……あ、それでそれで、例の二人が何を話しているのかは他の客の話し声や音楽もかかってて聞き取れなかったんですけど、そいつらの隣のテーブル片付けてた時に京都がどうのって言ってるのは聞こえました』
『……京都?』
最近どこかで、その地名を耳にした。思い出して早河は戦慄する。“なぎさ”だ。
この店にバーテンとして潜り込ませている早河の協力者の高木涼馬は、早河に温かい烏龍茶を提供した。早河は烏龍茶の登場に苦笑してカップに注がれたホットの烏龍茶に口をつける。
『バーで烏龍茶とは相変わらず健康志向だな』
『早河さんも酒と煙草はほどほどにしてくださいよ。今はまだいいけど10年後に絶対ガタが来ますよー』
高木は童顔の可愛らしい顔つきをしていてもれっきとした28歳、矢野一輝の高校時代の悪友だ。
矢野と親しく付き合うようになってからは矢野の友達の高木との絡みも増え、彼とも十年来の付き合いだ。高木も早河の探偵業の手助けをしてくれている。
『わかってるって。それで、昨夜ここに来たのはこの男で間違いないな?』
早河は高木に一枚の写真を見せる。高木は写真をじっと見て頷いた。
『間違いないです。昨日来たのはこの男です。来店は22時過ぎだったかな、1時間くらい居て、女と一緒でした』
『連れの女の特徴は?』
『歳は30前後、髪型は肩よりもちょっと下の長さの黒髪で悲壮感漂う美人。サスペンスドラマで夫を殺された未亡人って感じの』
高木の説明を早河は手帳にどう書き記すか思案した。とりあえず、三十代女、肩より少し下の長さの黒髪、イメージは悲壮感、未亡人、と殴り書きする。
『お前の説明だとイマイチわからないが、二人の仲はどんな風だった? 仕事仲間か友達か恋人か』
『恋人や友達って雰囲気じゃなかったね。親しいようで微妙な距離感があったし……。そこの席に座っていたんですよ』
高木はカウンターの内側から早河の背後を指差す。振り向いた早河は無人の座席を眺めた。
紫と青色に照らされた店内に並ぶ黒いテーブルと椅子。昨夜その場所に座っていた男と女を想像する。
『二人の関係を強いて言うなら仕事仲間がしっくりきますね』
『仕事仲間ね。ちなみに男と一緒だったのはこの女だったか? これは昔の写真だから今とは容姿が異なるだろうが……カオスのクイーンだ』
早河は犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央の写真も見せる。なぎさが所持していた高校時代の莉央の写真だ。今は25歳となっている莉央の現在の姿は早河もなぎさも知らない。
『うわっ。めっちゃ美人。これがクイーンかぁ。でも男といたのはこの女じゃないですよ。こんな美人がいたら店が騒ぎになってますって』
『そうか……』
『そういえば、キングの貴嶋の写真って持ってないんですか? 高校の時のヤツとか。俺も一輝も貴嶋の顔は知らないんですよね』
莉央の写真を早河に返した高木はついでに空になった烏龍茶のカップを下げる。
『貴嶋の写真はないんだ。高校時代に貴嶋とツーショットなんか撮ったこともなかったし、あいつは卒業までいなかったから卒アルにも写ってねぇしな……』
『じゃあ早河さんしか貴嶋の顔がわからないってことか。考えると恐ろしいな。貴嶋と道ですれ違ってもわからねぇじゃん。……あ、それでそれで、例の二人が何を話しているのかは他の客の話し声や音楽もかかってて聞き取れなかったんですけど、そいつらの隣のテーブル片付けてた時に京都がどうのって言ってるのは聞こえました』
『……京都?』
最近どこかで、その地名を耳にした。思い出して早河は戦慄する。“なぎさ”だ。