早河シリーズ第六幕【砂時計】
 それなのに悲劇は突然訪れた。
一発の銃弾が無情な響きを伴って恵となぎさの横を通過した。

耳を裂く強烈な発砲音と火薬の匂い。苦痛に顔を歪めて地面に倒れていく早河の姿が、スローモーションのようになぎさの目に映る。

 たった今まで目の前にいた早河は、コンクリートの地面にうつ伏せに倒れて動かなくなっていた。

 なぎさが甲高い悲鳴をあげる。

「そんな……どうして……」

恵も動揺して周囲を見回した。彼女の持つ拳銃は銃口を下に向けて下ろされている。早河を撃った人物は恵ではない。

 背後から足音が近付いてきた。夕陽の光が邪魔をして、なぎさには近付いてきた人物の顔がすぐにはわからなかった。

「……ケルベロス、どういうつもり?」

 少しずつ鮮明になるケルベロスの顔。恵がケルベロスと呼んだ男の正体に気付いたなぎさは驚愕した。
恵の後ろで控えていた男達がケルベロスに一礼する。

『最初からこうするつもりだったんだろう?』

恵の横に並んだケルベロスは冷めた目で地面に倒れている早河を見下ろした。

「早河さんを殺すつもりはなかったわ!」
『なんだ、ただの八つ当たりか。甘いな。早河は我々組織にとって邪魔者でしかない。始末できる時に始末して何が悪い?』
「あなた達組織の事情は私には関係ない」

ケルベロスは恵を一瞥して肩を竦める。

『おいおい、恵チャン。誰のおかげでここまで出来たと思ってる? お前ひとりじゃ拳銃すら手に入れられないくせに。お前に銃の扱いを教えてやったのも俺だぞ』
「協力は感謝してる。でも協力はするけど手出しはしない契約だったはずよ」
『調子に乗るな』

 ケルベロスが合図すると恵の後ろで控えていた男達が恵となぎさを囲んだ。恵となぎさは引き離され、恵は拳銃を奪われる。

『勘違いするな。こいつらは俺の部下であってお前の部下じゃない。俺の命令しか聞かねぇんだよ』

男に押さえつけられて動けずにいる恵をケルベロスは嘲笑う。彼の隣になぎさを確保した男が並んだ。

『殺すのが惜しいくらいに相変わらずいい女だなぁ』

 ケルベロスはなぎさの顎を持ち上げて卑劣な笑いを浮かべた。
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