早河シリーズ第六幕【砂時計】
 憂いのある彼女の横顔に成長を感じた。確実に美月は大人に近付いている。

「もしもの話なんですけど……カオスと呼ばれる組織があったとして、その組織の人達は何を目的にしていると思いますか?」

3年前と同じ、汚れのない真っ直ぐな瞳が彼を見ていた。美月らしい素直な質問だと彼は思う。

『仮にその組織の人間の目的を知ったとして、君はどうする?』
「わかりません。自分がどうしたいのかも、どうすればいいのかも。でもカオスって何なのかなって……どうしてカオスなのかそれが知りたくて……すみません。先生にこんなお話しても意味がわかりませんよね」

 美月はかぶりを振ってうつむいた。彼は手持ちぶさたに手に持つ本のページをめくり、まったく頭に入らない文字を目で追いかけながら口を開く。

『俺が君の質問で感じたのは……天地創造かな』
「天地創造? 創世記のですか?」
『ああ。新世界を創る……目的は大方、そんなところだろう』

 自分が“カオス”の人間でなかったのなら彼はどう答えていただろう。流し読みした本を棚に戻して彼は美月を見た。
無意識に手が伸びて彼女の頭に優しく触れる。

 数秒間、美月と彼は見つめ合った。
小さく息を吸った彼女の表情は驚いているようでもあり、悲しんでいるようでもあり、見開いた目の奥が潤んでいた。

         *

(誰? この人は誰?)
(嫌、嫌、嫌、そんな瞳で私を見ないで)
(あの人と同じ瞳で私を見ないで)
(壊れちゃうから)

 それは残像 それは錯覚


 ──“お前の笑顔が俺は一番好きなんだ”──
懐かしくて愛しいあの人の声が心の奥で響く


 それは幻聴 それは幻想

何故、彼女は泣いている?
頭の上が温かい。置かれた大きな手のひら
とても気持ちいい、安心する
あの人と同じ感覚を持つこの人は誰?


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