Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
後始末
山津波が治まった。その先に行ってみると、土に埋もれたマルケブの遺体があった。カノープスは複雑な表情でその土をどかし、遺体を引き出した。
「…おふくろ」
遺体の顔に額を当てた。実の親とこんな別れになるとは思いもしなかった。さらにその遺体を見ると、ところどころに吹き出物のようなものがあった。梅毒の類いだろう。不特定多数の男と関係を持っていたんだから、性病になっても不思議ではない。
――よくやった。
また声がした。やはり、神の啓示のようだ。
――お前はこの辛い戦いを制した。最後まで戦ったのはお前であり、唯一残ったのはお前の七星剣だ。
カノープスは首をかしげる。アヴィオール、ミアプラ、ミモザの剣は破損したが、フォマルハウトのは残っているはず…と思ったら、土に突き刺さっていたその剣にはひびが入っていた。慌てて引き抜こうとしたら、パキイン、と折れてしまった。土の星鏡と一緒に使ったことで、負担が大きくかかったのだろう。しかし、自分のは無事だった。
――カノープス、お前は候補生の中で唯一、最後まで戦い抜いた。今日からお前が、三代目の紫微垣となれ。
この時、三代目紫微垣・カノープスが誕生した。多くの犠牲を出しながら……。
カノープスが三代目紫微垣として最初に取りかかった仕事は、天牢庵の解体であった。今回の事件に鑑み、多数の候補生がいたら嫉妬心などから凄惨な殺し合いに発展することを危惧したのである。また、候補生がコラプサーに魅入られ、闇落ちするリスクも大きいと判断した。当然、カノープスが働いていた八穀も消滅することになる。
ちなみに、ミモザ、アヴィオールは体を痛めてしまい、日常生活には支障がないとしても戦士としては復帰できなくなった。ミアプラは妊娠し、まともに動けるようになるには二年くらいかかるだろう。さらに、3人とも七星剣を破損してしまい、フォマルハウトの形見だった剣も折れた。名実ともに、紫微垣はカノープス一人となったのだ。
半壊した天牢庵の建物は、そのまま取り壊すことになった。残ったカノープス、アルセフィナ、ミモザ、ミアプラ、アヴィオールは、しばらく城の一室を借りて住むことが許された。カノープス以外の4人については身の振り方を考えなければならないが――その前にやるべきことがあった。
それが次の仕事である、暗黒十字の封印であった。
武曲の祠とすぐ近くにある輔星の祠。そこには、霊体となった初代紫微垣・アルコルが居着いている。
その日、アルコルはゆったりと精神世界をただよっていた。この世を去って300年以上経つが、次世代の紫微垣が育ち、継承の型が安定するまでは輪廻に入ることができない。
そんな思索にふけっていた時である――
ガンッ、ゴンッ、
という激しい音が頭に響いた。な、何だ!?
慌てて意識を覚醒させると、武曲の祠側の地面に、誰かが黒い十字架を木槌で打ち付けていた。
《だ、誰だ!?》
「ああ、お目覚めか」
無愛想に言ったその人物は、16歳くらいの少年だった。
「あんた、初代紫微垣のアルコルだろ? ここに、魔剣の付属品だった暗黒十字の一つを埋めるから、見張っておいてくれ」
は? どういうことだ? しかも暗黒十字って?
その少年――カノープスが十字架を埋めた付近から、おどろおどろしい黒い煙が立ち上っていた。曰く、この十字架は「幻魔の呪法」を発動し、相手の精神に直接作用して精神崩壊をさせるとのことだ。
《な、なんでそんな物騒なものを……?》
「そこら辺に捨てたら、誰かが拾い上げて悪用するかもしれん。俺たち紫微垣で見張るんだよ。紫微垣継承の試練に使えるかもしれないぜ」
俺たち? 紫微垣?
「じゃあ、次の祠に行くんで」
カノープスは背中を見せて去って行った。その腰には――紫色の水晶をはめた七星剣が差されていた。
「もしや…三代目の紫微垣?」
この暗黒十字が、シリウスの代では心の暗黒空間に引き込む試練を呼び起こすことになる。
日がだいぶ傾いてきた頃、カノープスは禄存の祠に着いた。この祠自体が、アルコルと二代目紫微垣・フォマルハウトの墓標となっている。
カノープスはゴンゴン! と祠の扉を激しく叩く。
「師匠、来たぜ」
カノープスが言うと、祠の扉がひとりでに開き、霊体となった師――フォマルハウトが出現した。
《あのな、もう少し静かにノックできないのか?》
「できないっすね」
霊体にビビることもなく、しれっと答える。さらに、挨拶もそこそこに二つ目の十字架を祠に放り込んだ。
《おいおい、何したんだ?》
驚くフォマルハウトに、カノープスはしれっと言った。
「暗黒十字の一つを入れたんすよ。ちなみに一番やっかいなヤツ」
《え!?》
師匠の墓前に来るや手も合わせず、いきなり物騒なものを放り込むだと!?
「アルコルにも言ったけど、紫微垣継承の試練に使ってください」
無愛想に言って去って行った。やれやれ――。
この暗黒十字は、フォマルハウトが八の秘剣・北落師門を授けるのに一役買うことになるのだった。
《どうしたの? ハウト?》
そのそばにはカペラの霊体があった。彼女の墓は禄存の祠の近くにあるだけで、祠に弔われているわけではなかい。が、死してなお夫婦共にいたいという気持ちが、霊体を引き寄せていた。以後、30年ほど、この夫婦は霊体で過ごすことになる。
三つ目の十字架は昴の祠に組み込んだ。この世と霊界を行き来する空間に引きずり込む恐ろしい魔力がある。「星の大地発祥の祠に、死の魔力を持つものを入れるなんて…」と、ミアプラは渋ったがカノープスは
「だからこそだよ。人間の生と死を忘れないため、一番参拝者が多い祠に埋めたのさ」
これがやがて、「次の日に死ぬ者がお参りにくる」という不可思議な現象を引き起こすことになった。
「…おふくろ」
遺体の顔に額を当てた。実の親とこんな別れになるとは思いもしなかった。さらにその遺体を見ると、ところどころに吹き出物のようなものがあった。梅毒の類いだろう。不特定多数の男と関係を持っていたんだから、性病になっても不思議ではない。
――よくやった。
また声がした。やはり、神の啓示のようだ。
――お前はこの辛い戦いを制した。最後まで戦ったのはお前であり、唯一残ったのはお前の七星剣だ。
カノープスは首をかしげる。アヴィオール、ミアプラ、ミモザの剣は破損したが、フォマルハウトのは残っているはず…と思ったら、土に突き刺さっていたその剣にはひびが入っていた。慌てて引き抜こうとしたら、パキイン、と折れてしまった。土の星鏡と一緒に使ったことで、負担が大きくかかったのだろう。しかし、自分のは無事だった。
――カノープス、お前は候補生の中で唯一、最後まで戦い抜いた。今日からお前が、三代目の紫微垣となれ。
この時、三代目紫微垣・カノープスが誕生した。多くの犠牲を出しながら……。
カノープスが三代目紫微垣として最初に取りかかった仕事は、天牢庵の解体であった。今回の事件に鑑み、多数の候補生がいたら嫉妬心などから凄惨な殺し合いに発展することを危惧したのである。また、候補生がコラプサーに魅入られ、闇落ちするリスクも大きいと判断した。当然、カノープスが働いていた八穀も消滅することになる。
ちなみに、ミモザ、アヴィオールは体を痛めてしまい、日常生活には支障がないとしても戦士としては復帰できなくなった。ミアプラは妊娠し、まともに動けるようになるには二年くらいかかるだろう。さらに、3人とも七星剣を破損してしまい、フォマルハウトの形見だった剣も折れた。名実ともに、紫微垣はカノープス一人となったのだ。
半壊した天牢庵の建物は、そのまま取り壊すことになった。残ったカノープス、アルセフィナ、ミモザ、ミアプラ、アヴィオールは、しばらく城の一室を借りて住むことが許された。カノープス以外の4人については身の振り方を考えなければならないが――その前にやるべきことがあった。
それが次の仕事である、暗黒十字の封印であった。
武曲の祠とすぐ近くにある輔星の祠。そこには、霊体となった初代紫微垣・アルコルが居着いている。
その日、アルコルはゆったりと精神世界をただよっていた。この世を去って300年以上経つが、次世代の紫微垣が育ち、継承の型が安定するまでは輪廻に入ることができない。
そんな思索にふけっていた時である――
ガンッ、ゴンッ、
という激しい音が頭に響いた。な、何だ!?
慌てて意識を覚醒させると、武曲の祠側の地面に、誰かが黒い十字架を木槌で打ち付けていた。
《だ、誰だ!?》
「ああ、お目覚めか」
無愛想に言ったその人物は、16歳くらいの少年だった。
「あんた、初代紫微垣のアルコルだろ? ここに、魔剣の付属品だった暗黒十字の一つを埋めるから、見張っておいてくれ」
は? どういうことだ? しかも暗黒十字って?
その少年――カノープスが十字架を埋めた付近から、おどろおどろしい黒い煙が立ち上っていた。曰く、この十字架は「幻魔の呪法」を発動し、相手の精神に直接作用して精神崩壊をさせるとのことだ。
《な、なんでそんな物騒なものを……?》
「そこら辺に捨てたら、誰かが拾い上げて悪用するかもしれん。俺たち紫微垣で見張るんだよ。紫微垣継承の試練に使えるかもしれないぜ」
俺たち? 紫微垣?
「じゃあ、次の祠に行くんで」
カノープスは背中を見せて去って行った。その腰には――紫色の水晶をはめた七星剣が差されていた。
「もしや…三代目の紫微垣?」
この暗黒十字が、シリウスの代では心の暗黒空間に引き込む試練を呼び起こすことになる。
日がだいぶ傾いてきた頃、カノープスは禄存の祠に着いた。この祠自体が、アルコルと二代目紫微垣・フォマルハウトの墓標となっている。
カノープスはゴンゴン! と祠の扉を激しく叩く。
「師匠、来たぜ」
カノープスが言うと、祠の扉がひとりでに開き、霊体となった師――フォマルハウトが出現した。
《あのな、もう少し静かにノックできないのか?》
「できないっすね」
霊体にビビることもなく、しれっと答える。さらに、挨拶もそこそこに二つ目の十字架を祠に放り込んだ。
《おいおい、何したんだ?》
驚くフォマルハウトに、カノープスはしれっと言った。
「暗黒十字の一つを入れたんすよ。ちなみに一番やっかいなヤツ」
《え!?》
師匠の墓前に来るや手も合わせず、いきなり物騒なものを放り込むだと!?
「アルコルにも言ったけど、紫微垣継承の試練に使ってください」
無愛想に言って去って行った。やれやれ――。
この暗黒十字は、フォマルハウトが八の秘剣・北落師門を授けるのに一役買うことになるのだった。
《どうしたの? ハウト?》
そのそばにはカペラの霊体があった。彼女の墓は禄存の祠の近くにあるだけで、祠に弔われているわけではなかい。が、死してなお夫婦共にいたいという気持ちが、霊体を引き寄せていた。以後、30年ほど、この夫婦は霊体で過ごすことになる。
三つ目の十字架は昴の祠に組み込んだ。この世と霊界を行き来する空間に引きずり込む恐ろしい魔力がある。「星の大地発祥の祠に、死の魔力を持つものを入れるなんて…」と、ミアプラは渋ったがカノープスは
「だからこそだよ。人間の生と死を忘れないため、一番参拝者が多い祠に埋めたのさ」
これがやがて、「次の日に死ぬ者がお参りにくる」という不可思議な現象を引き起こすことになった。