Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

他人事

「どういうことだよ、ポルックス!」
「どうもこうもない、そういうことだ」
 アルクトゥルスが役場に行くと、カストルとポルックスが口論をしていた。
「おいおい、一体どうしたんだ?」
 2人の様子に多少動揺した。カストルとポルックスは、日頃からけんかをしているように見えるが、あくまでカストルがおどけてポルックスが突っ込むという、言わば漫才のようなやりとりが多い。が、今のこの状況はかなり緊迫していた。
「アルク、ポルックスが『警備兵はポラリスの護衛に出せない』だとよ」
「は?」
 本当に「どういうことだ」というものだった。紫微垣であるアルクトゥルスは、1人でも複数の敵を蹴散らす戦闘力がある。ただ、万全を期して力を貸してくれるカストルたち警備兵の存在はありがたいものだった。それがポラリスの護衛に出せないだと?
「…数日後、東の都でのアルデバラン王の行事がある」
 ポルックスが重々しく口を開く。その話によると、アルデバラン王の即位一周年の記念式典があるという。そういえば、昨年の今頃に新しいアルデバラン王が即位したのを思い出した。その式典には、東の都はもちろん、中つ都や北の村の警備兵もかり出されることになった。
「だけどよ、その隙をついて盗賊がポラリスを狙ってきたらどうするんだよ!」
 カストルが追及すると
「上で決まったことだ、どうしようもない!!」
 ポルックスが珍しく声を荒げた。
「……所詮、大人どもは体裁やメンツが大切だってことだ」
 北の町としては、警備兵を派遣しなければ町を治める役場としての沽券にかかわる。襲撃してくるか分からない盗賊に、多くの人員は割けないということだ。
「上司たちは何て言っているんだ?」
 アルクトゥルスがポルックスに聞くと
「お前ら若手だけで何とかしろ、だとさ」
 吐き捨てるように言った。その口調から怒りがにじみ出ている。若手の警備兵らはカストルやポルックスの声がかかれば協力してくれるだろう。が、人数は30人ほどだ。対して盗賊団は、情報によると200人はいるという。
 いくら紫微垣が一騎当千の戦力であろうと、これでは心もとない。
「4年前から何も変わっていない、大人たちは責任を負うことをしない!」
 ポルックスが拳を机にたたきつける。
 幼い盗賊団がポラリスを狙い、そして集団自殺した事件――あの時も大人たちは誰一人ポラリスを守ろうとしなかった。全てが終わった後は事後処理を淡々とやって、自ら命を絶った子供たちの遺体を袋に入れて火葬場に運んだだけだったのだ。ねぎらいの言葉をかけてくれた職員もいたが、結局彼らは誰も盗賊たちの死を悲しまなかった。
 大人たちは他人事なのだ――これがその時のアルクトゥルスの感想だった。そして今また、ポラリスの防衛より体裁や見栄を優先させようとしているのである。家庭においてさえ、世間体を気にしながらも家族のことをないがしろにする人間がいるが、この価値観が実は子供たちを貧困に追い詰め、人生を踏み外させていることに、どれだけの大人が気付いているのだろう。
 3人は、ただ呆然とするしかなかった。

 アルクトゥルスはとりあえず庵に帰宅することにした。ポルックスは地図を見ながら頭を抱えた。カストルは仲間を率いて見回りを続けた。
「ただいま」
 庵の扉を開けると、最近はデネボラが出迎えてくれる。が、今日はそれがない。どうやら出掛けているらしい。コラプサーは……相変わらず部屋の端に鎮座している。
(この魔剣がこの家にあるってだけで落ち着かん)
 師のカノープスが若い頃、さんざん手を焼いたとされる代物だ。しかも凄惨な殺し合いの中心にあった剣である。
 そんなことを考えていると、突然扉が開いた。
「アルク、いるか!?」
 入ってきたのはカストルだった。
「どうしたんだ、急に?」
「迎撃作戦を決めたぜ」
 アルクトゥルスの問いに対して、カストルは毅然とした表情で答えた。
「迎撃作戦?」
「ああ。以前、少ない人数で多数の犯罪集団を捕らえたことを思い出した。その時の作戦を応用して盗賊団を止めるんだ」
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