蒼い空の下で愛を誓う〜飛行機を降りたパイロットはただ君を好きなだけの男〜
翌日からもどこか険のある周囲の態度に、私は淡々と業務をこなしていた。表情が固くなりがちになっているのに気がついていたが、それでも笑顔であり続けることを心がけた。

チェックインカウンターで荷物を預かっていると以前何度か対応しているお客様に声をかけられた。

「この前は美味しいお店を教えてくれてありがとう。天ぷらが好きになったわ」

中国からのお客様で年に数回来日している親日家だ。少し前に美味しい天ぷらの店に行きたいと話していたので紹介したことがあった。

「気にいってもらえてよかったです。また日本に是非お越しくださいね」

「もちろんよ。また美味しいお店を紹介してちょうだいね」

今日初めて出た自然な笑顔に今まで強張っていたのだと改めて感じた。中国語を勉強しておいてよかったとこんな時に思う。決まりきった話ではなく、その国の言葉で話してもらえる安心感なのだろう。彼女は私を見かけるたびに声をかけてくれるので私も見かけると声をかけるようになっていた。でも後ろからの視線にまた気持ちが沈む。こんな話をしていることさえ許されないのだろうか。自分たちは私語をしているのに。考えれば考えるほど気が滅入る。

「やっぱりすごい流暢な中国語だね」

後ろから声をかけられ振り返ると結城さんが乗務を終えたのか立っていた。今は会いたくないのに、と思うがそれは私の事情で彼には関係ない。

「ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」

私がその場を離れようをすると彼に手首を掴まれた。大丈夫?と尋ねられるが、今のこの状況の方が大丈夫ではない。手を振り解くとその場を離れた。
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