年の差十五の旦那様 外伝②~いつか、それが『愛』になる~
「……私って、人生経験が未熟だなぁって思い知らされたというか」

 顔を逸らして、ぽつりとつぶやいた。

 私の様子に、奥さまは驚いたようだけど、ちょっとだけ笑った。

「クレアがそんな風にしているの、珍しいわよね。あなたはいつも明るいし」
「明るいだけが取り柄みたいなものですから」
「私はそうは思わないわ。あなたにはたくさんいいところがある」

 無邪気な瞳を向けられて、私は恥ずかしくなった。

 いつもなら笑って「ありがとうございます」と言えるのに。今日はどうしてか、うつむいてしまう。

「私はあなたにたくさん助けてもらったから」
「……奥さま」
「リッカルドのことも本当に助かっているの。私、子供には寂しい思いをさせないって決めていたのに……」

 その言葉は、奥さまの境遇から出ることなのだろう。

 実母を亡くし、すぐに後妻がやってきた。結果、奥さまはないがしろにされ、寂しい幼少期を過ごしたという――。

「あの子は優しいし物分かりがいいから。……余計に、心配になってしまうの」
「それは」
「自分の気持ちを伝えることができないんじゃないかって」

 奥さまが目を伏せる。

 私はなにも言えなかった。リッカルドさまの気持ちも、奥さまの気持ちもとてもよくわかるから。

 どちらかに偏った意見を言いたくなかった。

「考えると、自分が情けなく思うの。……だけど、クレアはそんな私の悩みを気にしないでって言ってくれたじゃない」

 確かに、そんなことを言った記憶はある。
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