年の差十五の旦那様 外伝②~いつか、それが『愛』になる~
「どうせ明日には帰るわよ。長居する気はありません」

 顔の前でバツ印を作ったロレインは、にこりと笑った。

 屈託のない笑みは、人の警戒心をいとも簡単に解いてしまう。俺も、何度この笑みにほだされてきたことか。

「あんたはなんで来たの?」
「業務報告」
「ふぅん、真面目ね」

 興味がないなら聞かないでほしい。

「ていうか、あんたにもいい人がいたんだね」

 突然放り込まれた爆弾に、むせてしまう。ロレインをにらむものの、彼女にはどこ吹く風だ。

「あんたにはもったいないんじゃない? すっごくきれいな人だったじゃん」
「どうしてロレインが誇らしげなんだ」

 公演チケットを手配してもらっておいてなんだけど、ロレインに口出しされるのは不本意だ。

「どこで知り合ったの? あたしにも紹介してよ」
「絶対に嫌だ」
「ちぇっ、まぁいいけどさ」

 横髪の毛先をいじりつつ、ロレインは大きくため息をつく。

「たださ、あんたの事情を知ってる人なの?」
「……それは」
「きちんと言わないと、不誠実だよ」

 クレアさんは、俺をただの庭師だと思っている。でも、実際は違う。

 ……俺の親は、実業家だ。

「それに、あんたのご両親もどう思うんだろうね。順当にいけば、あんたは跡取り。結婚相手に口出しされる可能性もあるよ」

 俺自身に家を継ぐ気はない。このまま庭師として暮らしていきたいと思っている。

 だけど親や親族が、それを許してくれるかは――わからない。

 叔父さんはいつまでもここにいていいと言ってくれる。しかし、ずっと迷惑をかけるわけにはいかない。
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