元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「僕はこう見えて執念深いんですよ、受けた仕打ちはすべて覚えています、その代わり……優しくされたことは、絶対に忘れません」

 クラウスは後ろを振り返ると、そのままアンジェリカに歩み寄った。
 そして彼女の頬にそっと手を添える。

「あの頃からアンジェリカは、僕にとって唯一の光だ……あなた以外の女など、考えられるはずがない」
「んっ……!」

 クラウスは言い終わるなり、アンジェリカの唇を奪った。
 アンジェリカは突然のことに戸惑いながらも、抵抗することなく彼を受け入れる。
 ミレイユは茫然としたまま、目の前で濃厚なキスシーンを見せつけられた。
 ようやく唇を離したクラウスは、くたっとしたアンジェリカを胸に抱き、剣のような瞳でミレイユを睨みつけた。

「わかったらさっさと消えろ、メス豚、僕のアンには指一本触れさせないぞ」

 ミレイユは全身を震わせながら、ドアに辿り着くと、おぼつかない足取りで部屋を出ていった。

「……クラウス」

 アンジェリカに名を呼ばれたクラウスは、ハッとして身体を離した。

「――あっ、すみません、いきなり人前で、嫌でしたよね……言葉遣いも、その、つい乱暴になってしまい……」

 先ほど、ミレイユに反撃していたのと同一人物だとは思えない。
 それほどに、クラウスはアンジェリカに弱い。絶対に嫌われたくないのだ。
 そんなクラウスを、アンジェリカはじっと見つめていた。

「違うわ、嫌なんかじゃない……クラウスが、私を守ってくれて嬉しかった、ミレイユにハッキリ言ってくれて、胸の辺りがすーっとしたの……こんな嫌な女になってしまって、私はクラウスに嫌われないかしら?」
「……嫌うはずがないでしょう、アンはもっと自己中心になっていいくらいです、この先どれほどわがままになろうが、あなたはあなたです。僕の愛する女性に変わりありません」

 胸に手をあて打ち明けるアンジェリカを、やはり全力で受け止めるクラウス。
 そんな彼を見ていると、アンジェリカは胸がひどく高鳴った。
 全身が熱くなり、頭の中が彼でいっぱいになる。
 ――なん、なのかしら、これ……わからないけど、今、すごく、クラウスに触れたい……。
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