元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「クラウス……」

 無意識に熱っぽい視線で訴えるアンジェリカに、クラウスが応えないはずがない。
 クラウスは背を屈め、アンジェリカは少し背伸びをし、どちらからともなく唇を重ねた。
 まるで磁石が引き合うように、二人は自然に互いを求め合っていた。
 静かな口づけが終わると、アンジェリカはふとよぎった不安を言葉にする。

「……だけど、少し心配だわ、ミレイユがあのまま引き下がるとは思えないし……もし逆上して、この家に迷惑がかかるようなことをしなければいいけれど」
「それは大丈夫ですよ……ねぇ、フリードリッヒ?」
「はい」

 クラウスの呼びかけでフリードリッヒが返事をすると、アンジェリカは一瞬固まった。
 そしてフリードリッヒを見ると、火がついたように顔が赤くなる。
 クラウスに夢中で、他に人がいることをすっかり忘れていた。

「あ、ご、ごめんなさい、フリードリッヒがいたのにっ」
「どうぞお気になさらず、当主様の幸せが私の幸せですので」

 フリードリッヒは心から嬉しそうに、穏やかな笑みを讃えている。

「……だけど、どうして、大丈夫と言えるの?」

 自信満々の二人に、素朴な疑問をぶつけるアンジェリカ。
 するとクラウスとフリードリッヒは目を合わせ、クスッと笑った。

「なぜって……? 昔から悪人には天罰が下ると決まっているからですよ、だから、アンはなにも心配しないで」
「クラウス様のおっしゃる通りでございます、すべては神の御心のままに……」

 蠱惑的に光る、宝石のような二人の目。
 なにも知らないアンジェリカは、キョトンと首を傾げている。
 実はクラウスの私怨は、アンジェリカが思うより根深い。
 そう、彼の復讐は、まだ終わっていなかったのだ。
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