元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
 ヨシュアから放たれた台詞に、ミレイユはすぐに頭に血が上る。ブリオット家でこてんぱんにやられたばかりだったので、さらに導火線が短くなっていた。

「な、な……なんて口ぶりなの! あなたから私に求婚してきたくせにっ、格下の年配者なのだから、ある程度私に尽くすのは当然でしょう!?」
「その傲慢なところ……親にそっくりだな」

 ミレイユの変わりように、ヨシュアは眉一つ動かさずに言った。
 まるでミレイユの本性を、最初から見抜いていたかのように。

「私は女性に興味がなくてね、この歳までずっと独り身だ、そんな私を、君の両親は散々バカにしてくれたよ。だから今回の話を持ちかけられた時は、喜んで引き受けた」

 ミレイユはわけもわからず、ただヨシュアを凝視している。
 そんな彼女に、ヨシュアは狡猾な笑みを浮かべた。

「ここまで来れば種明かししてもいいと言われていたのでね、お伝えしよう。私は最初から君と結婚する気などない。ブリオット公爵……クラウス殿に頼まれたのだよ、君たちをどん底に突き落とす手伝いをしてくれないかと」

 衝撃の事実に、ミレイユは驚愕した。
 そう、これこそが、クラウスとフリードリッヒが、秘密裏に進めていた計画だった。
 フランチェスカ家が破綻した時、ミレイユはヨシュアから求婚された。
 ずいぶんタイミングがよかったのは、その時を狙っていたからだ。
 プライドが高いミレイユとその両親、普段なら下級貴族の年増男との縁談など、聞く耳すら持たないだろう。
 しかし金に困っているなら、話は別だとクラウスは踏んだ。
 そして彼の思惑通り、ミレイユはヨシュアの求婚に食いつき、最悪のタイミングで婚約破棄されることとなった。
 愚かなフランチェスカ家、放っておいても没落していく運命だっただろうが、それではクラウスの気が済まない。
 アンジェリカが受けた苦しみ、悲しみの分だけ、自らが手を下して仕返しする――――すべてはクラウスの指示の元、フリードリッヒが暗躍し、遂行された復讐劇であった。
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