年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
一見すると空虚な目だけれどその奥は、自暴自棄に荒れ、憤りのような熱が見え隠れする。
高橋君に繋がれたまま、私の手は彼の口元へと運ばれていく。手慣れてはいるが、どこか機械的なその仕草。
そして柔らかそうなその唇が指に触れそうになる、その寸前。


「こーの、バーカーターレー!!!!」


さっと手を抜き、私は高橋君の両頬をペチンと叩いてやるのだった。

「モテ男のプライド傷つけられたからって、やけっぱちになってるんじゃないわよ!」

突然のことに目を丸くする高橋君に向かって、私は彼の目をしっかり見つめ矢継ぎ早に話を続けてやる。

「今そんなことして、後で後悔すんのは誰?私?違うでしょ?高橋君でしょ?大事にしていた初恋なんでしょ?だったら余計に一時の憂さ晴らしで、そんなことしちゃダメ!」

まったくもう!しっかりしなよ!
最後におでこをピンと弾いてやる。

「……そうでした」

ようやくまともな思考回路に戻った様子の高橋君は、おでこを擦りながら申し訳無さそうにチラリとこちらを見つめてくる。

「なんか、色々すみません。小西さん」
「いーえどういたしまして。後輩の過ちを指摘してやるのも年長者の役割ですからね」

フンと鼻息荒く、わざとらしく威張ってやると、高橋君は気まずそうに苦笑いする。

「じゃあ、どうすれば彼女は周囲の声じゃなくて俺の話を信用してくれるんですかね」
「……うーん?よくわかんないけど、じゃあ軽い気持ちじゃないっていうのが、周りにも伝わればいいんじゃないの?」

彼女が周囲から何を言われたのかはわからないが、決してポジティブな言葉ではないのだろう。
ならば周囲の過度な言葉の攻撃から彼女を守ってやれるのは、多分高橋君だけなのだと思う。
同時に周囲からは、彼女への思いの強さがどれほどのものなのかと試されているのかもしれない。

「それに彼女の『軽い気持ちで近寄るな』っていうのも深読みすれば、真剣ならば距離を縮めてほしいって気持ちがあるからこそ出た言葉なんじゃないのかな?」

……と、言ってもこれは私の想像でしかないんだけどね。
それでも高橋君は暗かった顔をパッと輝かせると、なるほどそういう意味かと納得したようだった。
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