年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
「何度も女子とは対峙してるはずなんですけど、繊細な女心ってやつは、いつまで経ってもどうしてもよくわからないんですよねぇ。やっぱり流石は小西さん、」
「伊達に年は重ねてませんからねえ?」

自分で言うならまだしも、やっぱり他人から年齢のことを言われるのは癪に障る。その言葉、最後まで言わせないぞと、被せる様に次の言葉を引き取ってやる。
すると高橋君はちょっと驚いた顔をした後ニヤリと笑う。

「……いやあ、俺、あの娘に夢中になってなかったら、もしかしたら小西さんを好きになってたかもしれませんねぇ」

先程の重たい空気を背負った様子はどこへやら。
そんな軽口を言いながら残りのコーヒーをぐいっと飲み干すと、高橋君はどこかスッキリとした表情をこちらに向けた。

「よし!じゃあ彼女の周りにいる誰かさんとやらに、早速俺の気持ちの真剣さでもアピールするとしようかな」

そして、じゃ残り時間も仕事頑張りましょう!と、言うと足早に休憩室を出ていった。

はいはいじゃあ仕事頑張ろうね。
そんななんの気無しに女子の喜びそうな事をしれっと言うからチャラいって言われるんだぞー気をつけろー、なんて高橋君を見送る私だったが……。

彼の姿がドアの向こうに消えた途端ドッと疲労感がやってきて、近くの椅子に腰を下ろしてしまうのだった。

いやーさすが夕闇の貴公子。なんという色気。
口元に手を持っていかれた時は、不覚にも心臓がどうにかなるかと思うくらいドキドキしてしまった。
戯れに行うその仕草でそうならば、彼が本気になった時は一体どんな表情をするのやら。
プリンスとの称号を得ているだけあって、田中君といい高橋君といい、最近の男の子はなんとも凄いお色気スペックが搭載されているものだ。
私の席はとんでもない男子に挟まれているんだなとつくづく痛感させられながら、椅子から立ち上がりドアのノブに手をかける。
……が。

ん?あれ?
高橋君の一連のアレコレのせいで忘れてたけど……。
しまった。また田中君の胸キュンエピソードを話そびれた。

田中君のことを思い出せば、現金なもので頭の中はすぐにその事で一杯になり、先程の高橋君の事などあっと言う間にどこかに消えていってしまう。

ああー!誰かに、誰かに、田中君とのあの瞬間のトキメキをお伝えしたい!!あの田中君の優しさについて誰かと分かち合いたい!!

たぎる思いを抑えきれない私は、仕方がないので今回も携帯をポチポチタップする。

『T君に、事務用品の補充手伝ってもらっちゃった。さり気ない優しさに、ときめいちゃうってば!!』

そんな訳で、誰かにお伝えしたい不完全燃焼なこの気持ちは本日もSNSへとぶつけることになるのだった。
__

その後仕事の早い高橋君といえば、早速彼女の部署に乗り込むと真剣交際を望んでいると声高に宣言し、その噂はあっと言う間に会社を駆け巡った。
私はというと高橋君の行動力にただ驚くと共に、「彼女の気持ちも不明のまま、外側からジワジワ囲っていっているようだけど、果たして大丈夫なのだろうか?」と今更ながら自分のアドバイスは正しかったのか?となぜだか一人余計なお世話ながら、ハラハラと心配してしまうのだった。
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