早河シリーズ最終幕【人形劇】
留置場に面した通路で警視庁公安部の栗山警部補が待っていた。栗山も警視庁では数少ない阿部と協力関係にある刑事。
公安部の栗山には笹本警視総監の監視を指示していた。
『総監を訪ねて大阪府警本部長がお越しですよ。銀座で仲良く接待の真っ最中です』
『府警本部長……笹本と同期の安西《あんざい》警視監か』
『都内で事件が多発しているクソ忙しい非常事態に警視庁トップは同期と飲み歩いている。気楽なものですね』
狭い通路を阿部と栗山、二人の一歩後ろに控えて塩屋が用心深く歩く。
『矢野の見舞いに行ったらしいな。早河から聞いた』
『意識はまだ戻っていませんが……。矢野には俺と飲みに行く約束を守ってもらわないと困るので』
仏頂面で冗談めかしつつも矢野を心配する言葉を吐く栗山に素直じゃないなと阿部は呟いて笑った。
阿部も栗山もこれまでひとりで戦ってきた。信頼できる仲間や部下は確かにいる。しかし今は探偵となった早河や矢野と、ここまで協力と信頼関係で結ばれるようになるとは彼らも思いもしなかった。
『一課の堀井警部が早河が刑事を辞めたのを惜しいと言っていた意味がわかる気がする。早河が今でも刑事を続けていればこの腐った警察組織を内側から崩すことも容易にできた』
阿部の独り言に栗山も同意する。
『しかし刑事じゃないからこその組織から解放された身軽さが今の早河の強みでしょうね。あいつは警察に収まって大人しくしている奴じゃない』
『そうだな。俺も実際に早河の上司になれば扱いに困るだろう』
『早河を上手く扱えるのは上野警部くらいなものですよ』
その時、栗山の長い前髪の奥の瞳が鋭く光った。目の前に飛び込んできた拳を栗山が避ける。側にいた阿部と塩屋も軽い身のこなしで受け身をとった。
薄暗い蛍光灯の下に四人の男が待ち構えている。
『警視、下がっていてください。ここは自分が……』
『いや、これは俺の仕事だ』
盾になろうとした塩屋を制して阿部はひるまず前に出た。阿部は四人の中で一番体格のいい男を見据えた。
『警察庁の阿部だ。何か用か?』
『警察庁と公安がうちの庭を嗅ぎ回って目障りだと上が大層ご立腹なんだ』
『“上”ね。お前達の言う上の人間が誰かは予想がついてる。上の人間の命令でお前らが林田を殺したんだな?』
林田の名を出すと四人のうち二人の視線が泳いだ。彼らも、用済みとなり始末された林田も阿部や栗山と同じ警察官。
公安部の栗山には笹本警視総監の監視を指示していた。
『総監を訪ねて大阪府警本部長がお越しですよ。銀座で仲良く接待の真っ最中です』
『府警本部長……笹本と同期の安西《あんざい》警視監か』
『都内で事件が多発しているクソ忙しい非常事態に警視庁トップは同期と飲み歩いている。気楽なものですね』
狭い通路を阿部と栗山、二人の一歩後ろに控えて塩屋が用心深く歩く。
『矢野の見舞いに行ったらしいな。早河から聞いた』
『意識はまだ戻っていませんが……。矢野には俺と飲みに行く約束を守ってもらわないと困るので』
仏頂面で冗談めかしつつも矢野を心配する言葉を吐く栗山に素直じゃないなと阿部は呟いて笑った。
阿部も栗山もこれまでひとりで戦ってきた。信頼できる仲間や部下は確かにいる。しかし今は探偵となった早河や矢野と、ここまで協力と信頼関係で結ばれるようになるとは彼らも思いもしなかった。
『一課の堀井警部が早河が刑事を辞めたのを惜しいと言っていた意味がわかる気がする。早河が今でも刑事を続けていればこの腐った警察組織を内側から崩すことも容易にできた』
阿部の独り言に栗山も同意する。
『しかし刑事じゃないからこその組織から解放された身軽さが今の早河の強みでしょうね。あいつは警察に収まって大人しくしている奴じゃない』
『そうだな。俺も実際に早河の上司になれば扱いに困るだろう』
『早河を上手く扱えるのは上野警部くらいなものですよ』
その時、栗山の長い前髪の奥の瞳が鋭く光った。目の前に飛び込んできた拳を栗山が避ける。側にいた阿部と塩屋も軽い身のこなしで受け身をとった。
薄暗い蛍光灯の下に四人の男が待ち構えている。
『警視、下がっていてください。ここは自分が……』
『いや、これは俺の仕事だ』
盾になろうとした塩屋を制して阿部はひるまず前に出た。阿部は四人の中で一番体格のいい男を見据えた。
『警察庁の阿部だ。何か用か?』
『警察庁と公安がうちの庭を嗅ぎ回って目障りだと上が大層ご立腹なんだ』
『“上”ね。お前達の言う上の人間が誰かは予想がついてる。上の人間の命令でお前らが林田を殺したんだな?』
林田の名を出すと四人のうち二人の視線が泳いだ。彼らも、用済みとなり始末された林田も阿部や栗山と同じ警察官。