早河シリーズ最終幕【人形劇】
美月は無言で部屋に戻る。一緒に入ってきた三浦が後ろで窓を閉めていた。
『今日は他の仕事があるからもうここには来れない』
「そうですか。他の仕事もあって忙しいのに私の世話もあって大変ですね。……着替えてきます」
ジャケットを彼に突っ返してベッドルームに逃げ込んだ。パジャマのボタンを外す手が震えていた。
会いたい人には二度と会えなくて、会いたい人に似た男が現れた。顔も口調も性格もまるで似ていない二人の男が重なり合ってひとつになる。
あと少しで、その男とキスをしてしまいそうになった。
「佐藤さんのことを考えてどれだけ泣けば気が済むんだろうね」
会いたい人には二度と会えず、恋しい恋人にもここから出なければ一生会えない。
涙に滲む瞳でベッドルームとリビングルームを隔てる扉を見つめた。閉じられた扉の先にはまだ三浦がいる。
もしかしたら三浦とこれっきり会えなくなりそうな、曖昧な予感と胸騒ぎで心が落ち着かない。
「今日……何があるの?」
美月がわかることは今日は貴嶋佑聖の誕生日。それだけだ。貴嶋が何歳になるのかそういえば聞き忘れていた。
これだけ顔を合わせているのに、美月は貴嶋の正確な年齢を知らないままだ。
今日も高級ブランドの服に袖を通す。上質なニットは着心地は良くても、貴嶋の着せ替え人形にされている感覚は拭えない。
着替えた美月はベッドルームを出た。
知らない間にダイニングテーブルに並べられた朝食の用意の風景に三浦英司が溶け込んでいる。彼は先ほど読んでいた新聞をまた広げて席についていた。
家族でも恋人でも友達でもない男との二人きりの朝食も今日が最後になるのではないか……。
こちらと目を合わせない三浦の顔を盗み見して、彼女はメープルシロップの甘い香りが漂うふかふかのフレンチトーストにナイフを入れた。
『今日は他の仕事があるからもうここには来れない』
「そうですか。他の仕事もあって忙しいのに私の世話もあって大変ですね。……着替えてきます」
ジャケットを彼に突っ返してベッドルームに逃げ込んだ。パジャマのボタンを外す手が震えていた。
会いたい人には二度と会えなくて、会いたい人に似た男が現れた。顔も口調も性格もまるで似ていない二人の男が重なり合ってひとつになる。
あと少しで、その男とキスをしてしまいそうになった。
「佐藤さんのことを考えてどれだけ泣けば気が済むんだろうね」
会いたい人には二度と会えず、恋しい恋人にもここから出なければ一生会えない。
涙に滲む瞳でベッドルームとリビングルームを隔てる扉を見つめた。閉じられた扉の先にはまだ三浦がいる。
もしかしたら三浦とこれっきり会えなくなりそうな、曖昧な予感と胸騒ぎで心が落ち着かない。
「今日……何があるの?」
美月がわかることは今日は貴嶋佑聖の誕生日。それだけだ。貴嶋が何歳になるのかそういえば聞き忘れていた。
これだけ顔を合わせているのに、美月は貴嶋の正確な年齢を知らないままだ。
今日も高級ブランドの服に袖を通す。上質なニットは着心地は良くても、貴嶋の着せ替え人形にされている感覚は拭えない。
着替えた美月はベッドルームを出た。
知らない間にダイニングテーブルに並べられた朝食の用意の風景に三浦英司が溶け込んでいる。彼は先ほど読んでいた新聞をまた広げて席についていた。
家族でも恋人でも友達でもない男との二人きりの朝食も今日が最後になるのではないか……。
こちらと目を合わせない三浦の顔を盗み見して、彼女はメープルシロップの甘い香りが漂うふかふかのフレンチトーストにナイフを入れた。