早河シリーズ最終幕【人形劇】
『あいつじゃないか? 眼鏡をかけてる、パソコンもある、年齢も30前後に見える』

 早河が窓際のカウンター席の男を指差した。真紀はカウンターの隅にいる男に焦点を合わせる。
眼鏡をかけた横顔に大学時代の面影が残っていた。

「山内慎也さんですね?」

男の側に寄って声をかける。彼はキーに触れていた手を止めて真紀を見上げた。警察手帳を見ても彼は怯まない。

『やっと来た。待っていましたよ、小山刑事。それと早河探偵』
「あなたがスパイダー?」
『そうです。僕がスパイダーです。初めまして』

 ラウンジには窓から明るい日差しがたっぷりと差し込んで暖房と相まって暑いくらいだ。カオスの幹部とようやく対面した。

緊張と逮捕を逸《はや》る気持ちから、真紀の額は汗ばんでいる。彼女は警察手帳を懐に戻した。

「カオスのスパイダーであると認めるのね?」
『認めますよ。逃げも隠れもしません。逮捕するならお好きにどうぞ。でもその前にこれを渡しておかないとね』

 スパイダーはカードをテーブルに置いた。赤坂ロイヤルホテルのロゴが入るカードキーだ。
真紀はスパイダーの動きに注意を払いつつ、カードキーを手にした。表面に3003と印字されている。

「部屋のカードキー?」
『その部屋に浅丘美月がいます。3003号室』
『やはり貴嶋に連れ去られていたのか』
『彼女はずっと部屋に軟禁状態でね。さすがに可哀想になってきたので、そろそろ逃がしてあげてもいいかなと思って』

真紀の隣の早河を一瞥してスパイダーは口元を上げた。
この男は早河と真紀がここに来るのを、あらかじめわかっていた。だから刑事が現れても落ち着き払っていられるのだ。

 真紀はカードキーも懐に入れ、代わりに手錠を取り出した。

「両手を出しなさい」
『はいはい』

 素直に両手を差し出したスパイダーは手錠をかけられても平然としている。こちらが拍子抜けするほど、やけにあっさりした逮捕だった。

「早河さん、この男をお願いします。私は美月ちゃんを……」
『ああ。早く保護しに行け』

早河にスパイダーの監視を任せた真紀は足早にラウンジを出ていった。
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