早河シリーズ最終幕【人形劇】
 早河が手振りでキャプテンを呼び、キャプテンに頼んでホテルのガードマンをこちらに来させる。ガードマンに連れ出されるスパイダーをラウンジにいる人々が好奇の目で見ていた。

『JSホールディングスハッキングの痕跡から僕の居場所を突き止めたのは誰ですか? 警視庁のサイバー課? 科捜研?』

 ラウンジの外に連れ出されたスパイダーが早河に尋ねた。早河は押収したスパイダーのノートパソコンを脇に抱えている。

『矢野だ』
『へぇ。意識取り戻したらしいですね。そうか。彼が……噂には聞いていましたが、なかなかやるなぁ』

彼はひとりごちして首を縦に動かした。ガードマンとスパイダー、早河がエレベーターに乗り込み扉が閉まる。

『矢野はトラップをクリアすればお前に辿り着くと言っていた。今までのお前なら、そんな仕掛けはしなかったとも不思議がっていた。わざと俺達に居場所をわかるよう小細工したのは何故だ?』
『あなたってキングの友人ですよね?』
『昔の話だ』
『昔か。僕は別にキングの崇拝者ではない。カオスに入ったのもちょっと手を出してはいけない領域に手を出してキングの怒りを買って、生き延びるにはキングの下で働くしか手段がなかったんです』

 エレベーターは途中で客室階の二十四階と二十一階で停まったが、どちらも強面のガードマンと手錠を嵌められたスパイダーを見て躊躇した宿泊客はエレベーターに乗らなかった。

『だけど何だかんだやってきてキングとの付き合いも8年になる。8年も付き合えば、長年の友人のような感覚も生まれてきます。僕にはこんなに長い付き合いの友人はいない』
『それが俺達に居場所を教えた理由?』

スパイダーは肯定も否定もしない。彼は無表情に階数表示を見つめていた。

『そういえば僕の顔よくわかりましたね。どこかで写真でも手に入れました?』
『お前の大学時代の同級生から仕入れた』

 エレベーターの扉が一階で開いて優美な装飾の天井と床が視界に飛び込んでくる。両側をガードマンに挟まれたスパイダーがエレベーターを降り、早河も続いて降りた。

『大学時代……誰から仕入れたんです?』
『提供者の名前は明かせない』
『写真の提供者は辻加奈子《つじ かなこ》……違いますか?』

 早河はポーカーフェイスを繕っているが、スパイダーは自分の勘が正しいと察する。高校と大学の同級生である辻加奈子とは、他の異性よりは親しい付き合いをしていた。

加奈子との友達以上恋人未満の関係は大学3年の夏を境に終焉を迎え、大学卒業後は完全に疎遠となった。彼女がまだ自分の写真を持っていたことも彼には意外であった。
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