早河シリーズ最終幕【人形劇】
神明のデスクには筆記用具や患者のリスト以外に目ぼしいものは入っていない。用意周到な貴嶋は自分の居所がわかるものは残さない。
早河はデスクのセンター引き出しを開けた。空っぽの引き出しの中に一枚のメモ用紙が中板の中央部にセロテープで固定されている。メモを見た早河はメモ用紙をセロテープごと慎重に剥がしてジャケットのポケットに押し込んだ。
『……ダメです。神明先生の連絡先となっている携帯の番号も繋がりません』
高山が受話器を置いてかぶりを振る。今さら驚くことでもない。こうなることは早河には予想がついていた。
『“神明大輔”はもうここには現れないでしょう。最初から今日で神明の役を終わりにする予定だったんですよ。高山さん、有紗のところに行きましょう』
『ええ……。気が重いですね。有紗は神明先生のことを気に入っていましたから……』
娘のことが心配な高山も早河と共に最上階に上がるエレベーターに乗り込んだ。有紗は最上階のカフェにいるとなぎさからメールをもらっている。
『申し訳ありませんが、有紗には神明先生のことは早河さんから伝えてください。私もまだ受け入れられないんです。恩師の紹介だと安心しきって犯罪組織の人間に有紗のカウンセリングを任せていただなんて……。それも有紗を殺そうとした佐伯の上にいた人間に……。なんてことだ』
額を押さえて苦悩する高山に向けて早河は頷いた。
本心では早河も動揺している。なぎさのメールによれば、なぎさは神明大輔としての貴嶋と顔を合わせているようだ。
自分の知らない間に貴嶋がなぎさに接触していた。自分の領域が、大切なものが脅かされている感覚は非常に気分が悪い。
二人が最上階のカフェに入ると奥の席に女性三人の姿が見える。有紗となぎさ、高山の部下の加藤麻衣子だ。
「あっ! お父さんと……早河さんっ! 早河さーんっ、おかえりなさーい」
椅子を降りてピョンピョン跳び跳ねる有紗は人目を憚《はばか》らずに早河に抱き付いた。
早河は有紗の後方にいるなぎさと麻衣子と目を合わせる。事情を知っている二人の表情も冴えなかった。
彼は抱き付いてきた有紗の頭を撫で、彼女の肩を押して引き離した。
『話があるんだ。とにかく座ろう』
「うん」
早河の言うことを素直に聞いて有紗は元の場所に座った。有紗達のテーブルには数冊のファッション雑誌がページを開いたまま散乱している。なぎさが雑誌を閉じて隅に片付けた。
早河はデスクのセンター引き出しを開けた。空っぽの引き出しの中に一枚のメモ用紙が中板の中央部にセロテープで固定されている。メモを見た早河はメモ用紙をセロテープごと慎重に剥がしてジャケットのポケットに押し込んだ。
『……ダメです。神明先生の連絡先となっている携帯の番号も繋がりません』
高山が受話器を置いてかぶりを振る。今さら驚くことでもない。こうなることは早河には予想がついていた。
『“神明大輔”はもうここには現れないでしょう。最初から今日で神明の役を終わりにする予定だったんですよ。高山さん、有紗のところに行きましょう』
『ええ……。気が重いですね。有紗は神明先生のことを気に入っていましたから……』
娘のことが心配な高山も早河と共に最上階に上がるエレベーターに乗り込んだ。有紗は最上階のカフェにいるとなぎさからメールをもらっている。
『申し訳ありませんが、有紗には神明先生のことは早河さんから伝えてください。私もまだ受け入れられないんです。恩師の紹介だと安心しきって犯罪組織の人間に有紗のカウンセリングを任せていただなんて……。それも有紗を殺そうとした佐伯の上にいた人間に……。なんてことだ』
額を押さえて苦悩する高山に向けて早河は頷いた。
本心では早河も動揺している。なぎさのメールによれば、なぎさは神明大輔としての貴嶋と顔を合わせているようだ。
自分の知らない間に貴嶋がなぎさに接触していた。自分の領域が、大切なものが脅かされている感覚は非常に気分が悪い。
二人が最上階のカフェに入ると奥の席に女性三人の姿が見える。有紗となぎさ、高山の部下の加藤麻衣子だ。
「あっ! お父さんと……早河さんっ! 早河さーんっ、おかえりなさーい」
椅子を降りてピョンピョン跳び跳ねる有紗は人目を憚《はばか》らずに早河に抱き付いた。
早河は有紗の後方にいるなぎさと麻衣子と目を合わせる。事情を知っている二人の表情も冴えなかった。
彼は抱き付いてきた有紗の頭を撫で、彼女の肩を押して引き離した。
『話があるんだ。とにかく座ろう』
「うん」
早河の言うことを素直に聞いて有紗は元の場所に座った。有紗達のテーブルには数冊のファッション雑誌がページを開いたまま散乱している。なぎさが雑誌を閉じて隅に片付けた。