早河シリーズ最終幕【人形劇】
 隣でカクテルを飲む莉央を盗み見る。小さな顔に猫のような黒目がちの瞳、長い睫毛と白い肌。目鼻立ちの整った美人とはまさに彼女を指す言葉だ。

(話には聞いていたけど綺麗な人。美人で優しくて、でも神秘的で……。隼人が好きになるのもわかるなぁ)

 料理を口に運びつつ、美月は半年前の出来事を思い出した。半年前、美月が在学している明鏡大学の准教授が殺害された事件に美月と隼人は巻き込まれた。

その過程で隼人は寺沢莉央と知り合う。隼人に早河探偵事務所に行けと助言をしたのは莉央だ。

隼人と莉央はその後も何度か顔を合わせ、隼人は莉央に惹かれた。そのことに関して隼人と大喧嘩をしたのは夏の終わり。あの大喧嘩以降、隼人の口から莉央の名前が出たことはない。

「あの……どうして莉央さんは私を助けてくれたんですか?」

 美月の質問を受けた莉央は横目で美月を一瞥し、カクテルのグラスをテーブルに置いた。

「半年前のこと?」
「そうです。隼人に早河さんの探偵事務所に行くように言ったり、佐々木さんに刺された隼人を助けたのもあなただと隼人が言っていました。どうしてなんですか?」
「あなたも、あなたの彼氏と同じことを聞くのね。木村隼人にも同じ質問をされたわ」

三日月型に細めた黒い瞳が笑っている。莉央は美月の頬に手を添えた。赤いネイルの細い指が美月の頬を撫でる。

「助けたくなったから助けただけよ。人を助けることに理由はいらないでしょう?」

 優しく穏やかな莉央の雰囲気が美月の心を惑わした。莉央は人殺しだと隼人から聞いている。
今年3月に起きた樋口コーポレーションの殺人事件の記事を美月も読んだ。

あの事件の犯人が今、目の前にいるこの優しくて穏やかな女性だ。わからない。わからない。

「……どうしたの? 涙が出てる。メイクが崩れちゃうよ?」

ふいに溢れた美月の涙を莉央がハンカチで拭う。美月もどうして自分が泣いているのかわからなかった。
莉央は涙ぐむ美月を会場隅の椅子に座らせた。

「ここで少し休んでいて。飲み物を取ってくるからね」

 ドリンクコーナーに向かう莉央の紅色のドレスが遠ざかる。美月は借りたシルクのハンカチを握り締めて顔を伏せた。
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