早河シリーズ最終幕【人形劇】
わからなくなってしまった。
殺人は悪、犯罪者は悪。無意識に刷り込まれてきた正義の概念が崩れてゆく。
莉央の前で流した涙は母親に慰められて安心して流す涙と似ていた。
寺沢莉央は殺人犯だ。だが美月と接する莉央はとても優しく、彼女が人を殺した人間だとは信じがたい。
人を助けることに理由はいらないと莉央は言った。犯罪者が理由もなく人助けをする……わからない。
何が正解? 何が間違い? 人を殺した人間が必ずしも悪ではないことを美月は知っている。
佐藤瞬がそうだった。彼も人を殺す人間には見えなかった。
だけどそれは佐藤が美月に見せていた顔が佐藤瞬のほんの一部分に過ぎなかったから。
美月は人殺しの佐藤瞬を知らない。犯罪組織の人間としての彼を知らない。
犯罪に手を染めた彼の苦しみや痛みを理解した気になっていても本当は何一つ、わかっていなかったのかもしれない。
人間には表の顔と裏の顔がある。
例えば、ここに集う人間達。貴婦人と紳士のお喋りの声、クラシック演奏、グラスが合わさる音、視界に映る光景が表だとすると、裏の面も必ず存在する。
貴嶋はパーティーの主旨を誕生日の前祝いだと表した。犯罪組織のキングの誕生日パーティーに出席する紳士淑女は皆、貴嶋の正体を知っていることになる。
(まさかこの人達みんなカオスの人?)
この会場内で、自分以外の全員が犯罪組織の人間だと考えると背筋がぞっと寒くなった。
誰も彼もが笑顔の仮面を張り付けた裏側でその手を血に染めているとしたら。犯罪者の集団にひとり放り込まれている今の状況がたまらなく怖くなった。
(ここを出よう。やっぱり逃げなくちゃ。このままじゃキングの都合のいい着せ替え人形にされちゃう)
莉央はドリンクコーナーの手前で数人の男女に囲まれて話をしている。幸い、貴嶋も近くにいない。
彼女に借りたハンカチを綺麗に折り畳んで椅子に置き、美月は小走りに会場の出入口に向かった。
殺人は悪、犯罪者は悪。無意識に刷り込まれてきた正義の概念が崩れてゆく。
莉央の前で流した涙は母親に慰められて安心して流す涙と似ていた。
寺沢莉央は殺人犯だ。だが美月と接する莉央はとても優しく、彼女が人を殺した人間だとは信じがたい。
人を助けることに理由はいらないと莉央は言った。犯罪者が理由もなく人助けをする……わからない。
何が正解? 何が間違い? 人を殺した人間が必ずしも悪ではないことを美月は知っている。
佐藤瞬がそうだった。彼も人を殺す人間には見えなかった。
だけどそれは佐藤が美月に見せていた顔が佐藤瞬のほんの一部分に過ぎなかったから。
美月は人殺しの佐藤瞬を知らない。犯罪組織の人間としての彼を知らない。
犯罪に手を染めた彼の苦しみや痛みを理解した気になっていても本当は何一つ、わかっていなかったのかもしれない。
人間には表の顔と裏の顔がある。
例えば、ここに集う人間達。貴婦人と紳士のお喋りの声、クラシック演奏、グラスが合わさる音、視界に映る光景が表だとすると、裏の面も必ず存在する。
貴嶋はパーティーの主旨を誕生日の前祝いだと表した。犯罪組織のキングの誕生日パーティーに出席する紳士淑女は皆、貴嶋の正体を知っていることになる。
(まさかこの人達みんなカオスの人?)
この会場内で、自分以外の全員が犯罪組織の人間だと考えると背筋がぞっと寒くなった。
誰も彼もが笑顔の仮面を張り付けた裏側でその手を血に染めているとしたら。犯罪者の集団にひとり放り込まれている今の状況がたまらなく怖くなった。
(ここを出よう。やっぱり逃げなくちゃ。このままじゃキングの都合のいい着せ替え人形にされちゃう)
莉央はドリンクコーナーの手前で数人の男女に囲まれて話をしている。幸い、貴嶋も近くにいない。
彼女に借りたハンカチを綺麗に折り畳んで椅子に置き、美月は小走りに会場の出入口に向かった。