早河シリーズ最終幕【人形劇】
華やかなパーティーの雰囲気が苦手なスパイダーはネクタイをほどいて会場を出た。エレベーターホールに三浦英司の姿をした佐藤瞬を見つけた。
ホールの窓の向こうにはライトアップに輝く東京の街がある。
『姿が見えないからどこにいるかと思えばそんなところに。パーティーに出なくていいのか?』
『一応は死んでる身だからな。公の場は控えている』
『あー、そうだね。それに姫の前で誰かが君の通り名を呼べば姫に三浦英司の正体が知られてしまうしね』
窓を背にして立つ佐藤の横にスパイダーが並んだ。
『姫って美月のことか?』
『もちろん。あの子には囚われの姫の名前がお似合いだろう?』
ほどいたネクタイを首から抜き、スパイダーは首を回して凝りをほぐす。佐藤もスーツを着ているが彼はノーネクタイだ。
『でもいいのかい? このままだとあの子は一生キングの可愛い人形として囚われの身になる』
『今の俺にはどうすることもできない』
『意外と淡白だね。あの子に対して君はもう少し熱くなると思っていたよ』
『お前こそ、美月を気にするとは意外だな。スパイダーは他人に無関心だと思っていたが』
スパイダーは薄ら笑いを浮かべた。
『確かに。僕もどうして浅丘美月のことをこんなに気にかけているのか不思議だ。クイーンはお姉さん気取りで甲斐甲斐しく世話を焼いてあげてるし、スコーピオンは浅丘美月に死んだ娘の姿を重ねている』
『スコーピオンの娘と美月は同じ年だからな』
『そう。でもただ同じ年だからと言って、誰彼構わず死んだ娘と重なるものでもないだろう? 君も昔の婚約者と同じ年の女がいればその人に婚約者を重ねてみたりする?』
亡き婚約者の年齢を佐藤は数えた。彼女が生きていれば今頃自分はこの場にはいなかった。スパイダーも、スコーピオンもそうだ。
『外見や声が似ていれば多少はな』
『そっか。僕もわからないではないよ。でもどんなに重ねてみたところで、それは僕達が望む人ではない』
『ああ。死んだ人間と似た人間がいたとしても結局は別人だ』
『ただし、三浦英司は佐藤瞬だけどね。……キングが目をつけただけあって浅丘美月にはどこか、カオスの人間を惹き付ける何かがあるように思うよ。その何かはあの子を愛した君が一番知っているのかもね』
スパイダーは窓につけていた背を離した。彼は振り向かずにその場を立ち去る。
ひとりになった佐藤はスパイダーが残した言葉の意味に思考を巡らした。
(美月にはカオスの人間を惹き付ける何かがある……か)
会場の扉が開いた気配の直後、白いドレスの女性が小走りに飛び出して来た。あの姿は美月だ。
咄嗟にホールの柱の裏に隠れた佐藤は会場から出てきた美月の様子を窺う。彼女は挙動不審に辺りを見回していた。
(あいつ……逃げ出すつもりなのか?)
ホールの窓の向こうにはライトアップに輝く東京の街がある。
『姿が見えないからどこにいるかと思えばそんなところに。パーティーに出なくていいのか?』
『一応は死んでる身だからな。公の場は控えている』
『あー、そうだね。それに姫の前で誰かが君の通り名を呼べば姫に三浦英司の正体が知られてしまうしね』
窓を背にして立つ佐藤の横にスパイダーが並んだ。
『姫って美月のことか?』
『もちろん。あの子には囚われの姫の名前がお似合いだろう?』
ほどいたネクタイを首から抜き、スパイダーは首を回して凝りをほぐす。佐藤もスーツを着ているが彼はノーネクタイだ。
『でもいいのかい? このままだとあの子は一生キングの可愛い人形として囚われの身になる』
『今の俺にはどうすることもできない』
『意外と淡白だね。あの子に対して君はもう少し熱くなると思っていたよ』
『お前こそ、美月を気にするとは意外だな。スパイダーは他人に無関心だと思っていたが』
スパイダーは薄ら笑いを浮かべた。
『確かに。僕もどうして浅丘美月のことをこんなに気にかけているのか不思議だ。クイーンはお姉さん気取りで甲斐甲斐しく世話を焼いてあげてるし、スコーピオンは浅丘美月に死んだ娘の姿を重ねている』
『スコーピオンの娘と美月は同じ年だからな』
『そう。でもただ同じ年だからと言って、誰彼構わず死んだ娘と重なるものでもないだろう? 君も昔の婚約者と同じ年の女がいればその人に婚約者を重ねてみたりする?』
亡き婚約者の年齢を佐藤は数えた。彼女が生きていれば今頃自分はこの場にはいなかった。スパイダーも、スコーピオンもそうだ。
『外見や声が似ていれば多少はな』
『そっか。僕もわからないではないよ。でもどんなに重ねてみたところで、それは僕達が望む人ではない』
『ああ。死んだ人間と似た人間がいたとしても結局は別人だ』
『ただし、三浦英司は佐藤瞬だけどね。……キングが目をつけただけあって浅丘美月にはどこか、カオスの人間を惹き付ける何かがあるように思うよ。その何かはあの子を愛した君が一番知っているのかもね』
スパイダーは窓につけていた背を離した。彼は振り向かずにその場を立ち去る。
ひとりになった佐藤はスパイダーが残した言葉の意味に思考を巡らした。
(美月にはカオスの人間を惹き付ける何かがある……か)
会場の扉が開いた気配の直後、白いドレスの女性が小走りに飛び出して来た。あの姿は美月だ。
咄嗟にホールの柱の裏に隠れた佐藤は会場から出てきた美月の様子を窺う。彼女は挙動不審に辺りを見回していた。
(あいつ……逃げ出すつもりなのか?)