早河シリーズ短編集【masquerade】
 早河のホットドッグと有紗のハンバーガーを入れた紙袋を持って店を出る。12月の寒い日だったが、天気も良好で日向が暖かい。

遊園地の入場口のすぐ側の芝生に座って二人は昼食にありついた。遊園地で遊ぶ人々の歓声がBGMみたいに流れてくる。

「早河さん、あの時はごめんなさい。早河さんとなぎささんの気持ちも考えずに私……」

 食べかけのハンバーガーを膝の上に置いて有紗は顔を伏せた。貴嶋佑聖を擁護したと捉えられてしまう発言をしたことで、早河となぎさを傷付けてしまったのではないか、二人に嫌われたのではないかと不安だった。

 早河はホットドッグの最後の一口を口に放ってカップのコーヒーをすする。ハンバーガーショップのコーヒーは特に美味しくもなく不味くもなく、普通のインスタントコーヒーの味がした。

『有紗の気持ちは俺もなぎさもわかってる。あの状況じゃ、お前が混乱して戸惑うのは無理もない。俺の方こそキツイ言い方してごめんな』

ポンポンと早河の大きな手で優しく頭を撫でられて、堪えていた涙が有紗の瞳から溢れた。

「私のこと嫌いになってない?」
『嫌いになるわけないだろ。だいたい、嫌いになってたらこんな風に一緒に出掛けたりしない。……ん』

 ピックに刺したナゲットを早河は有紗の口元まで運ぶ。口を開けて早河に食べさせてもらったナゲットは特別に美味しく感じた。
有紗は涙をハンカチで拭いて、少し冷めたハンバーガーを食べ始めた。

「どうして私をデートに誘ったの?」
『デートじゃねぇよ』
「どう見たってデートでしょぉ?」
『どう見たってオジサンが姪っ子の子守りしてるようにしか見えねぇだろ』

 ぎこちなかった会話にいつもの調子が戻ってきた。これでいい。早河とのこんなやりとりが嬉しくてたまらないのだから。

 昼食も済んでいよいよ遊園地に繰り出した有紗の手は早河の腕をしっかりと掴んでいる。

「早河さん、ジェットコースターはダメなんだよね?」
『ダメってほどでもないけど……』

有紗は彼の腕にすり寄って笑い声を漏らした。

「元刑事の探偵さんが怖いものがジェットコースターって可愛いっ!」
『怖いとは言ってない』
「じゃあ乗る?」

早河は無言で視線をそらす。有紗がまた大笑いした。

「無理しなくていいよ。ジェットコースターに乗らなくても遊園地は楽しめるもん!早河さんと一緒ならなんでも楽しい」

 それは早河が見た有紗の久しぶりの笑顔だった。ここのところ泣いている顔しか見なかった有紗が楽しそうに笑っている。

自分と一緒にいることで有紗が笑ってくれるなら、心の傷が少しでも癒えるのならどれだけでも一緒にいてやりたい。でもそれはできない。

「早河さーん! 早く!」

 先に乗り物待ちの列に並んだ有紗が早河を呼ぶ。ジェットコースターは回避できたが、遊園地に来たからには他のアトラクションには乗らなくてはいけない。

有紗が並んでいる列はフリーフォール。あれもジェットコースター並みで、垂直に立つ大きなアトラクションを目の前にして目眩がしそうだ。

 刑事時代の過酷な仕事の方がマシに思えてしまう。遊園地ほど早河に不似合いな場所はない。
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