早河シリーズ短編集【masquerade】
 家の前には早河の愛車が駐まっていた。何度も乗っている助手席に座り、車が出発する。
車内にはいつもと同じようで何かが違う雰囲気が漂っていて何を話せばいいかわからない。

「お仕事忙しい?」
『それなりには。有紗は体調どうだ?』
「今はもう元気」

 思うように会話が続かない。元々、口数の少ない早河との会話では有紗が一方的に話すことを早河が聞いて、面倒くさそうにしながらも有紗の相手をしてくれていた。

早河のそういう優しさが好きだ。13歳上の男への恋心は憧れであって恋じゃないと言う人もいるけれど早河への想いは確かに恋だ。

「なぎささんはどうしてる?」
『昨日から北海道に行ってる』
「北海道?」

車は有紗の住む街を抜けて大通りを走行する。行き先は有紗が指定したある場所だ。

『なぎさの友達のカオスのクイーンが死んだことはお父さんに聞いてるだろ?』
「うん……」
『クイーンの故郷が北海道なんだよ。なぎさはクイーンの遺骨を埋葬するために……な。それがアイツの役割だから』

 なぎさの話をする早河の横顔は穏やかで優しい。気付きたくなかった真実に有紗はまだ気付かないフリをした。

「なぎささんは早河さんが今日私と会うこと知ってるの?」
『知ってる』

今日早河と有紗が会うこともなぎさは了承済み。苦くて暗いドロドロとした感情が心を支配する。
目を閉じて早河に気付かれないように小さく深呼吸をした。今日だけは、今だけは。

(私が独り占めしてもいいよね……?)

 数十分車を走らせて着いた場所は遊園地。有紗が行きたいと言った場所だ。
満車に近い駐車場からは大きな観覧車やジェットコースターが見えた。

「遊園地に行きたいなんて子供っぽいって思ってる?」
『有紗らしくていいんじゃないか?』

早河は笑っていた。その笑顔にまた心臓がうるさくなる。やっぱりこの人が好きだと実感する。

『まず昼飯にするか』
「うん!」

駐車場を出て遊園地の隣に併設された複合施設のハンバーガーショップに入る。店内は家族連れやカップルで賑わっていた。

『もうすぐ高校卒業だな』
「春からは短大生でーす」

 有紗はすでに短大の受験が終わって合格を貰っている。四年生大学進学を目指してセンター試験を1ヶ月後に控える同級生よりは、気楽な立場だ。

有紗と同じくらいの歳の男女がハンバーガーの載ったトレイを抱えて早河の横を通り過ぎる。有紗と一緒にいる時に早河は毎度思うことだが、自分達は周りからどのように見えているのだろう。

『まだまだ高校生だと思ってたのにな。もう卒業か』
「早いよね。きっとあっという間にハタチになっちゃうんだろうなぁ」

 有紗は何気なく言った言葉でも早河には重たく響く。彼女もいつまでも高校生ではない。
あっという間に成人を迎えて大人になってしまう。ケジメをつけるなら今しかない。
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