早河シリーズ短編集【masquerade】
『写真は私が預かろう。3日、時間をくれ』
『伯父さん何かするの?』
『心配するな。権力に対抗するには、さらに上位の権力を使う。お前は本能的に賢い。予備校の体験は行きたければ行けばいいが、土曜……いや、日曜日までは行動を起こさずに大人しく待っていなさい』

 武田がそう言う以上、矢野は従うしかない。帰りは村瀬ではない別の秘書の車で自宅まで送り届けられた。

(権力に対抗するにはさらに上位の権力を使う……伯父さん何する気だよ)

 今夜は珍しく梨乃も揃っての夕食だった。でも矢野は、梨乃の話は上の空でずっと武田の真意を考えていた。
風呂上がりに書斎に行き、パソコンを使ってインターネットの掲示板にアクセスする。


 ──[例の田町のオヤジ狩りの犯人捕まったらしい。やっぱり英明ゼミナールの生徒だって]

 ──[うちの学校に警察来てた。同じクラスの奴が犯人グループのメンバーだったらしい。怖~]

 ──[だけどこの事件のニュースって見掛けないよね。ネットではこんなに騒がれてるのにおかしくない?]


インターネットを活用する人間は情報が早い。

(4月は学校に警察が来てたのに今回はそんな様子はなかった。捕まった奴らも鶴岡のことは警察に話さなかった?)

 鶴岡が集団暴行事件の犯人グループの主犯であっても彼は父親の権力に守られ、いつでも安全圏にいる。

虫も殺さないような気弱な顔をした男の裏の顔を見てしまった。鶴岡は血まみれになった被害男性の顔に唾を吐いて笑っていたのだ。
あの瞬間を思い出すと今も虫酸が走り、おぞましさに背筋が凍る。

 誰にでも表と裏の顔はある。いくつもの顔がある。あって当然だ。
自分だって表と裏の顔を使い分けて生きている。

それでもどうしてこんなにやりきれない?
どうしてこんなに不快になる?

 眠れない水曜日の夜を過ごして夜が明け、木曜、金曜と時が過ぎた。
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