早河シリーズ短編集【masquerade】
『4月から起きていた集団暴行事件……俗に言うオヤジ狩りの犯人は英明ゼミナールの生徒で、君が犯人グループを仕切るリーダーだってことはわかっているんだ。証拠の写真もばっちり撮ってある。この写真に写る犯人グループの中に君がいる』
5月12日に撮影した犯行の瞬間の写真を鶴岡の目の前にかざす。鶴岡は目を見開いて写真を凝視した。
『犯人グループは君以外の六人は身元が突き止められて警察で事情を訊かれている。でも君だけはいつも無事。親父さんの力で守られているんだ』
急に鶴岡が笑い出した。おどおどとした態度は跡形もなく消え、彼は矢野を小馬鹿にするように鼻で笑った。
『そうそう。いつも僕は安全なんだ。パパが守ってくれるからね。証拠の写真があったってどうせ僕は捕まらない。先生まで協力させて僕を追い詰める作戦だったみたいだけど残念だったな』
鶴岡が唾を地面に吐き捨てた。被害男性の顔に唾を吐いたあの夜と同じ形相をしている。
これが鶴岡慎太郎の裏の顔……違う、本性だ。
『“いつもならね”。いつもなら君は安全圏にいられたと思う』
『は? 何を言ってる?』
『今回は今までとは違うってことさ。話は変わるけど、君の親父さんの会社の鶴岡製薬は去年に鶴岡製薬で製造された薬の副作用による薬害訴訟があったんだってね。でも裁判で鶴岡製薬側の非は認められず、結果は原告側の敗訴。だけどこの裁判には裏があった。裁判は本当は原告の勝訴間違いなしだったんだ。それを厚労省が手を回して鶴岡製薬を勝たせた。自分の家の会社で何が起きていたか知ってた?』
矢野によって語られた父親の会社の話に鶴岡は戸惑っている。裁判の裏側までは知らなかったようだ。
『鶴岡製薬にはかなりの数の厚労省の元役人が天下《あまくだ》っている。俺には役人や会社のメンツはよくわかんねぇけど。この薬害訴訟の真実を明日発売の週刊誌で報道することになった。当然、親父さんは大慌てだ。せっかく厚労省の権力使って裁判に勝ったのに、訴訟の裏に厚労省の力が働いていたってことがバレたら会社も厚労省も終わる。なんとしてでも週刊誌に記事が載るのは避けたい。そこで鶴岡くんの親父さんは、議員である俺の伯父と取引をした』
矢野は手に持つ数枚の写真をトランプのように扇状に広げた。
『週刊誌に訴訟の記事を載せない代わりに暴行事件を起こした君を警察に出頭させる。それが伯父が親父さんに出した取引の条件だ。いつもは、何かやらかしても親父さんが警察上層部に手を回して君は罪を逃れてきた。でも今回は犯行の写真がある。君が犯人だと証明する決定的な証拠だ』
鶴岡は青ざめた顔を左右に振って唇を震わせた。
『親父さんとしては会社の不正が週刊誌に載ることも息子が集団暴行事件の犯人であると世間に知られることもどちらも回避したい。親父さんは伯父の条件を承諾した。もうすぐ警察がここに来る。パパはもう君を守ってくれないぞ』
『嘘だ……! パパが僕を見捨てるはずがないっ!』
『鶴岡。自分のした事の責任は自分にしか負えない。犯罪を犯しても親に守ってもらおうとする考えがそもそも甘いんだ』
寺田教諭の叱咤に鶴岡が小さな悲鳴をあげて縮こまる。屋上と階段を隔てる扉を寺田が開けた。
5月12日に撮影した犯行の瞬間の写真を鶴岡の目の前にかざす。鶴岡は目を見開いて写真を凝視した。
『犯人グループは君以外の六人は身元が突き止められて警察で事情を訊かれている。でも君だけはいつも無事。親父さんの力で守られているんだ』
急に鶴岡が笑い出した。おどおどとした態度は跡形もなく消え、彼は矢野を小馬鹿にするように鼻で笑った。
『そうそう。いつも僕は安全なんだ。パパが守ってくれるからね。証拠の写真があったってどうせ僕は捕まらない。先生まで協力させて僕を追い詰める作戦だったみたいだけど残念だったな』
鶴岡が唾を地面に吐き捨てた。被害男性の顔に唾を吐いたあの夜と同じ形相をしている。
これが鶴岡慎太郎の裏の顔……違う、本性だ。
『“いつもならね”。いつもなら君は安全圏にいられたと思う』
『は? 何を言ってる?』
『今回は今までとは違うってことさ。話は変わるけど、君の親父さんの会社の鶴岡製薬は去年に鶴岡製薬で製造された薬の副作用による薬害訴訟があったんだってね。でも裁判で鶴岡製薬側の非は認められず、結果は原告側の敗訴。だけどこの裁判には裏があった。裁判は本当は原告の勝訴間違いなしだったんだ。それを厚労省が手を回して鶴岡製薬を勝たせた。自分の家の会社で何が起きていたか知ってた?』
矢野によって語られた父親の会社の話に鶴岡は戸惑っている。裁判の裏側までは知らなかったようだ。
『鶴岡製薬にはかなりの数の厚労省の元役人が天下《あまくだ》っている。俺には役人や会社のメンツはよくわかんねぇけど。この薬害訴訟の真実を明日発売の週刊誌で報道することになった。当然、親父さんは大慌てだ。せっかく厚労省の権力使って裁判に勝ったのに、訴訟の裏に厚労省の力が働いていたってことがバレたら会社も厚労省も終わる。なんとしてでも週刊誌に記事が載るのは避けたい。そこで鶴岡くんの親父さんは、議員である俺の伯父と取引をした』
矢野は手に持つ数枚の写真をトランプのように扇状に広げた。
『週刊誌に訴訟の記事を載せない代わりに暴行事件を起こした君を警察に出頭させる。それが伯父が親父さんに出した取引の条件だ。いつもは、何かやらかしても親父さんが警察上層部に手を回して君は罪を逃れてきた。でも今回は犯行の写真がある。君が犯人だと証明する決定的な証拠だ』
鶴岡は青ざめた顔を左右に振って唇を震わせた。
『親父さんとしては会社の不正が週刊誌に載ることも息子が集団暴行事件の犯人であると世間に知られることもどちらも回避したい。親父さんは伯父の条件を承諾した。もうすぐ警察がここに来る。パパはもう君を守ってくれないぞ』
『嘘だ……! パパが僕を見捨てるはずがないっ!』
『鶴岡。自分のした事の責任は自分にしか負えない。犯罪を犯しても親に守ってもらおうとする考えがそもそも甘いんだ』
寺田教諭の叱咤に鶴岡が小さな悲鳴をあげて縮こまる。屋上と階段を隔てる扉を寺田が開けた。