早河シリーズ短編集【masquerade】
扉の前で待機していた男二人が刑事だと矢野には直感的にわかった。警察手帳を掲げた二人の男は鶴岡に歩み寄る。
『鶴岡慎太郎くんだね。集団リンチ事件のことで話を聞かせてもらえるかい?』
自分は安全圏にいると高をくくっていた鶴岡は刑事の登場に脱力して座り込んだ。鶴岡は地面に拳を打ち付け、恨みの宿る目で矢野を睨み付けた。
『クソッ……! お前の伯父を今度はパパに言って潰してやる!』
泣き叫ぶ鶴岡の脅し文句も負け惜しみにしか聞こえない。矢野は彼を見下ろして静かに言い放つ。
『だからそれは無理だって。世の中には、上には上がいるってこと、お前も覚えた方がいい』
鶴岡は刑事に連行された。生徒指導部主任の寺田も鶴岡の付き添いで警察まで行くそうだ。
『終わったなぁ』
高木は屋上の柵に持たれて空を仰いだ。矢野も高木の隣に並ぶ。
今日の降水確率は50%、雨が降るかは天の気まぐれだ。
事件は解決した。予期せぬ形で集団暴行事件の犯人と勘違いされた誤認補導から始まり、犯人を探るための潜入調査、犯人グループのリーダーが同じ高校の同級生の鶴岡だと突き止めた。
鶴岡は父親の防守《ぼうしゅ》を失い、警察に連れていかれた。鶴岡が更生できるかは彼次第だ。
これで終わった。……本当に?
『だけど後味は悪い。鶴岡がやったことは外道だけど、親父も外道だ。会社の不正と息子を天秤にかけて不正を隠蔽したまま、息子を差し出したんだからな。そうするように仕向けた伯父さんのやり方も好きにはなれない。これが大人のやり方かもしれないけど、本当は薬害訴訟も鶴岡の罪も公に裁かれるべきなんだ』
例えるなら今の気持ちはこの曇天の空と同じ。いっそのこと雨が降るなら降ってくれた方がすっきりするのに。
『結局、正義のヒーローなんてどこにもいないんだ……』
正しいことをした? 何が正しい選択?
伯父の武田のやり方も鶴岡の父親の選択も、本当は間違っている。
答えの出ない難問を永久に解かされているみたいな苦しさだった。
『一輝はよくやったと思う。ひとりで調べたり予備校乗り込んだり、すげぇよ』
高木が労《ねぎら》いの意味をこめて矢野の肩を叩く。矢野は天に向けて大きく伸びをした。
『涼馬、帰ろう』
『予備校は? 金曜から二人ともサボってるし……』
『今さら行き辛いよなぁ。俺ああいう勉強しましょーねノリ苦手』
『それ最初の俺のセリフ』
顔にポツポツと雨粒が当たる。降水確率50%の予報は晴れではなく雨に傾いた。
気まぐれな天の神が降らせた雨は恵みの雨か、悲しみの涙か。
『決めた。今日もサボりー! ボーリング行こうぜ』
『賛成!』
降り注ぐ雨を顔に受けて矢野と高木は笑い合った。
『鶴岡慎太郎くんだね。集団リンチ事件のことで話を聞かせてもらえるかい?』
自分は安全圏にいると高をくくっていた鶴岡は刑事の登場に脱力して座り込んだ。鶴岡は地面に拳を打ち付け、恨みの宿る目で矢野を睨み付けた。
『クソッ……! お前の伯父を今度はパパに言って潰してやる!』
泣き叫ぶ鶴岡の脅し文句も負け惜しみにしか聞こえない。矢野は彼を見下ろして静かに言い放つ。
『だからそれは無理だって。世の中には、上には上がいるってこと、お前も覚えた方がいい』
鶴岡は刑事に連行された。生徒指導部主任の寺田も鶴岡の付き添いで警察まで行くそうだ。
『終わったなぁ』
高木は屋上の柵に持たれて空を仰いだ。矢野も高木の隣に並ぶ。
今日の降水確率は50%、雨が降るかは天の気まぐれだ。
事件は解決した。予期せぬ形で集団暴行事件の犯人と勘違いされた誤認補導から始まり、犯人を探るための潜入調査、犯人グループのリーダーが同じ高校の同級生の鶴岡だと突き止めた。
鶴岡は父親の防守《ぼうしゅ》を失い、警察に連れていかれた。鶴岡が更生できるかは彼次第だ。
これで終わった。……本当に?
『だけど後味は悪い。鶴岡がやったことは外道だけど、親父も外道だ。会社の不正と息子を天秤にかけて不正を隠蔽したまま、息子を差し出したんだからな。そうするように仕向けた伯父さんのやり方も好きにはなれない。これが大人のやり方かもしれないけど、本当は薬害訴訟も鶴岡の罪も公に裁かれるべきなんだ』
例えるなら今の気持ちはこの曇天の空と同じ。いっそのこと雨が降るなら降ってくれた方がすっきりするのに。
『結局、正義のヒーローなんてどこにもいないんだ……』
正しいことをした? 何が正しい選択?
伯父の武田のやり方も鶴岡の父親の選択も、本当は間違っている。
答えの出ない難問を永久に解かされているみたいな苦しさだった。
『一輝はよくやったと思う。ひとりで調べたり予備校乗り込んだり、すげぇよ』
高木が労《ねぎら》いの意味をこめて矢野の肩を叩く。矢野は天に向けて大きく伸びをした。
『涼馬、帰ろう』
『予備校は? 金曜から二人ともサボってるし……』
『今さら行き辛いよなぁ。俺ああいう勉強しましょーねノリ苦手』
『それ最初の俺のセリフ』
顔にポツポツと雨粒が当たる。降水確率50%の予報は晴れではなく雨に傾いた。
気まぐれな天の神が降らせた雨は恵みの雨か、悲しみの涙か。
『決めた。今日もサボりー! ボーリング行こうぜ』
『賛成!』
降り注ぐ雨を顔に受けて矢野と高木は笑い合った。