早河シリーズ短編集【masquerade】
ミレニアムイヤーを迎えた西暦2000年7月。都内のマンションの一室でハルナは目覚めた。
カーテンは開いている。大きな窓から見える夏の青空が眩しくて彼女は目を細めた。
ハルナはベッドを抜け出してシャワーを浴びた。下着だけを身に付けバスルームを出た彼女は、キッチンの冷蔵庫を開ける。
物が少ない冷蔵庫の二段目に小皿に載っただし巻き玉子が寂しげに存在していた。
空腹を感じると思えばもう昼時だ。ラップに包まれただし巻き玉子の皿をレンジにかけた。ホクホクと湯気の昇る玉子焼きがレンジから出て来て食欲をそそる。
「いただきまーす」
小声で呟いて、箸で切り分けただし巻き玉子を口に運んだ。調理から時間が経っていても玉子のふわふわの食感は健在だった。
「ん。美味しい」
『何してんの?』
四つに切り分けただし巻き玉子のふたつめに箸をつけたハルナの後ろでかすれた男の声がした。寝ぼけ眼の矢野一輝が寝返りをうってハルナを見つめている。
「お腹空いちゃって。冷蔵庫にあった玉子焼きもらったよ」
『ああ……それ昨日の夕飯の残り。……何時?』
矢野はあくびをして身体を起こした。時計を見て寝すぎた事態に気付いたが、今日は外出の予定はない。寝坊をしても問題なかった。
だし巻き玉子の皿を持ったハルナがベッドに腰掛けた。矢野がハルナの腰に手を回して彼女を抱き寄せる。
「一輝ってなんでこんなに玉子焼き上手なの? これってだし巻き玉子だよね? 綺麗に巻けてるし、私もこんな風に料理上手に出来たらいいのになぁ。はい、あーんして」
ハルナが矢野の口にだし巻き玉子を運ぶ。口を開けてハルナから玉子を受け取った矢野は、そのまま彼女とキスをした。二人の口の中で、玉子焼きがとけていく。
『死んだ母さんがだし巻き玉子よく作ってくれたんだ。それがすっげー旨くて。だし巻きは母さんから教わった唯一の料理』
「お母さんの思い出の味だね。いいな。私は親とのそんな思い出ないから。サユリママが親代わりみたいなものだもん」
伯父の武田健造の愛人、サユリが経営する銀座の高級クラブ〈メルシー〉でホステスをするハルナとは3年前の9月に出会った。まだ矢野が16歳の頃だ。
親しみやすい雰囲気を持つハルナに惹かれ、ハルナも矢野に好意を寄せた。二人が結ばれたのは矢野が17歳になった冬だった。
矢野にとって、ハルナが初めての恋人だ。
カーテンは開いている。大きな窓から見える夏の青空が眩しくて彼女は目を細めた。
ハルナはベッドを抜け出してシャワーを浴びた。下着だけを身に付けバスルームを出た彼女は、キッチンの冷蔵庫を開ける。
物が少ない冷蔵庫の二段目に小皿に載っただし巻き玉子が寂しげに存在していた。
空腹を感じると思えばもう昼時だ。ラップに包まれただし巻き玉子の皿をレンジにかけた。ホクホクと湯気の昇る玉子焼きがレンジから出て来て食欲をそそる。
「いただきまーす」
小声で呟いて、箸で切り分けただし巻き玉子を口に運んだ。調理から時間が経っていても玉子のふわふわの食感は健在だった。
「ん。美味しい」
『何してんの?』
四つに切り分けただし巻き玉子のふたつめに箸をつけたハルナの後ろでかすれた男の声がした。寝ぼけ眼の矢野一輝が寝返りをうってハルナを見つめている。
「お腹空いちゃって。冷蔵庫にあった玉子焼きもらったよ」
『ああ……それ昨日の夕飯の残り。……何時?』
矢野はあくびをして身体を起こした。時計を見て寝すぎた事態に気付いたが、今日は外出の予定はない。寝坊をしても問題なかった。
だし巻き玉子の皿を持ったハルナがベッドに腰掛けた。矢野がハルナの腰に手を回して彼女を抱き寄せる。
「一輝ってなんでこんなに玉子焼き上手なの? これってだし巻き玉子だよね? 綺麗に巻けてるし、私もこんな風に料理上手に出来たらいいのになぁ。はい、あーんして」
ハルナが矢野の口にだし巻き玉子を運ぶ。口を開けてハルナから玉子を受け取った矢野は、そのまま彼女とキスをした。二人の口の中で、玉子焼きがとけていく。
『死んだ母さんがだし巻き玉子よく作ってくれたんだ。それがすっげー旨くて。だし巻きは母さんから教わった唯一の料理』
「お母さんの思い出の味だね。いいな。私は親とのそんな思い出ないから。サユリママが親代わりみたいなものだもん」
伯父の武田健造の愛人、サユリが経営する銀座の高級クラブ〈メルシー〉でホステスをするハルナとは3年前の9月に出会った。まだ矢野が16歳の頃だ。
親しみやすい雰囲気を持つハルナに惹かれ、ハルナも矢野に好意を寄せた。二人が結ばれたのは矢野が17歳になった冬だった。
矢野にとって、ハルナが初めての恋人だ。