早河シリーズ短編集【masquerade】
{佐々木里奈は木村隼人の元恋人。つまるところ佐々木里奈《アゲハ》の目的は木村隼人を取り戻すことらしい}
木村隼人のことはよく覚えている。彼は美月の現在の恋人だ。隼人だからこそ、佐藤は美月を彼に託した。
『ずいぶん大掛かりな色恋沙汰ですね』
{それがただの色恋沙汰でもないからあなたに連絡してるの。厄介なのはアゲハと手を組んでアゲハを操る男の方。誰だと思う? あのスネークよ}
『……あいつが?』
スネークの本名は青木渡。犯罪組織カオスの幹部、スパイダーが指揮するハッカー集団の主要メンバーだ。
青木は3年前の殺人事件で佐藤の協力者だった。
後方に視線を感じる。佐藤は携帯を耳に当てたまま振り向いた。シーツにくるまったレイリーがこちらを見ていた。
{スネークは幹部の許可なくカオスの情報を外部に漏らした。それも浅丘美月にね。あなたがカオスでどのような立場だったか記載した手紙を送りつけたのよ。その手紙で彼女はあなたがカオスで何をしていたか知ってしまった}
『それで美月は……』
{さっき警視庁の上野警部が彼女の自宅に来ていた。警部に相談したのね。あの子の心境は私にはわからないけれど、状況は思わしくない}
佐藤が犯罪組織の人間であることも彼がこれまで犯してきた犯罪行為も、美月が知るには残酷な真実だ。美月がどんな想いでいるか考えると居ても立ってもいられない。
『クイーンが日本に戻れと仰る意味がわかりました』
{帰って来てくれる?}
『こちらで片付けなければならない仕事が残っています。すぐには戻れません』
{わかってる。そちらの仕事はあなたにしか片付けられないことです。また連絡するわ}
『はい』
莉央との通話を終えた彼は眼鏡を外して両目の目頭を軽く揉む。厄介な問題は日本でもこちらでも山積みだ。
バスローブを羽織ったレイリーが近付いてくる。真っ赤なペディキュアが施された白い素足が裸眼でぼやけた視界に飛び込んできた。
「“今の電話、なんか深刻な話だった?”」
『“大事な電話だったんだ”』
「“日本にいる恋人からね?”」
椅子に座る佐藤の膝の上にレイリーが乗る。佐藤を跨ぐ格好で向かい合わせになった彼女の腰に両手を添えた。
『“日本に恋人はいないよ”』
「“嘘ばっかり。あなたは日本に恋人を残してきてるってシーシーが言ってた”」
シーシーとはレイリーが所属する高級娼婦組織の元締めの女。シーシーは犯罪組織カオスと中国との窓口役を務めている。
カオスの情報に精通するシーシーは、どこかで佐藤の情報を入手していたようだ。
「“どうして隠すの? 私はシュンに恋人がいても怒らないよ。悲しいし嫌だけど……”」
レイリーの眼差しからは娼婦と客以上の好意を感じる。彼女の好意にはとっくに気付いていた。
木村隼人のことはよく覚えている。彼は美月の現在の恋人だ。隼人だからこそ、佐藤は美月を彼に託した。
『ずいぶん大掛かりな色恋沙汰ですね』
{それがただの色恋沙汰でもないからあなたに連絡してるの。厄介なのはアゲハと手を組んでアゲハを操る男の方。誰だと思う? あのスネークよ}
『……あいつが?』
スネークの本名は青木渡。犯罪組織カオスの幹部、スパイダーが指揮するハッカー集団の主要メンバーだ。
青木は3年前の殺人事件で佐藤の協力者だった。
後方に視線を感じる。佐藤は携帯を耳に当てたまま振り向いた。シーツにくるまったレイリーがこちらを見ていた。
{スネークは幹部の許可なくカオスの情報を外部に漏らした。それも浅丘美月にね。あなたがカオスでどのような立場だったか記載した手紙を送りつけたのよ。その手紙で彼女はあなたがカオスで何をしていたか知ってしまった}
『それで美月は……』
{さっき警視庁の上野警部が彼女の自宅に来ていた。警部に相談したのね。あの子の心境は私にはわからないけれど、状況は思わしくない}
佐藤が犯罪組織の人間であることも彼がこれまで犯してきた犯罪行為も、美月が知るには残酷な真実だ。美月がどんな想いでいるか考えると居ても立ってもいられない。
『クイーンが日本に戻れと仰る意味がわかりました』
{帰って来てくれる?}
『こちらで片付けなければならない仕事が残っています。すぐには戻れません』
{わかってる。そちらの仕事はあなたにしか片付けられないことです。また連絡するわ}
『はい』
莉央との通話を終えた彼は眼鏡を外して両目の目頭を軽く揉む。厄介な問題は日本でもこちらでも山積みだ。
バスローブを羽織ったレイリーが近付いてくる。真っ赤なペディキュアが施された白い素足が裸眼でぼやけた視界に飛び込んできた。
「“今の電話、なんか深刻な話だった?”」
『“大事な電話だったんだ”』
「“日本にいる恋人からね?”」
椅子に座る佐藤の膝の上にレイリーが乗る。佐藤を跨ぐ格好で向かい合わせになった彼女の腰に両手を添えた。
『“日本に恋人はいないよ”』
「“嘘ばっかり。あなたは日本に恋人を残してきてるってシーシーが言ってた”」
シーシーとはレイリーが所属する高級娼婦組織の元締めの女。シーシーは犯罪組織カオスと中国との窓口役を務めている。
カオスの情報に精通するシーシーは、どこかで佐藤の情報を入手していたようだ。
「“どうして隠すの? 私はシュンに恋人がいても怒らないよ。悲しいし嫌だけど……”」
レイリーの眼差しからは娼婦と客以上の好意を感じる。彼女の好意にはとっくに気付いていた。