早河シリーズ短編集【masquerade】
隼人は玄関を飛び出した。ホールのエレベーターは作動しておらず、階段の方から足音が響いていた。
エレベーターを呼び出して一階まで降りる。エントランスの前で待ち伏せしていると、疲れきった顔の美月が階段を降りて来た。
『俺の方が速かったな』
驚く美月に向けて余裕の笑みを返す。本当は笑える余裕なんてこれっぽっちもない。
せめてもの格好つけだ。
「……なんで?」
『エレベーター動いてなかったし、階段降りる音聞こえたから』
「エレベーターで先回りしたの?」
『そう。このマンションの住人は滅多に階段使わねぇから、あの時間に階段駆け降りていく奴は美月しかいないと思って。待ち伏せ』
美月は頬を膨らませ、口も尖っている。隼人が追っても追わなくても、彼女は腹を立てていたに違いない。
「……ムカつく」
『ムカつくのはお互い様だろ』
「偉そう! 俺様! ドS! 馬鹿! アホ!」
『悪口は帰ってから聞く』
精一杯の抵抗を見せる美月の腕を軽々と掴んでエレベーターまで引っ張った。無言のエレベーターの中でも隼人は美月の腕を掴んだまま離さない。
「どうして? ……どうして待ってたのよ……」
美月の小さな呟きに隼人は答えない。
どうして? ……そんなもの決まってる。
エレベーターを降りて通路を歩き、再び隼人の自宅へ。玄関を入ると靴も脱がずに隼人は美月を抱き締めた。
『ごめん。美月を不安にさせちまって……ごめんな。俺が寺沢莉央に惚れてるのは事実だ。でもそれは美月と別れてあいつと付き合いたいとか、そういう気持ちじゃない。勝手だって思われるだろうけど、俺には美月が必要なんだ』
「う……隼人……ごめんなさい。ごめんなさい……」
大粒の涙を流す美月を彼は優しく強く、腕の中に閉じ込めた。
『お前が浮気したのはショックだけど俺だって……白状すると俺も一度だけ寺沢莉央とキスした。ごめん』
「バカ! バカバカバカッ! 自分だって浮気してるじゃない! 隼人のアホ! 浮気者! 女たらし!」
『……美月の小学生みたいな悪口、けっこう攻撃力高いよな……。図星過ぎてグサグサ刺さる』
隼人はくくっと喉を鳴らして笑い、泣き腫らした美月の顔を両手で持ち上げた。
『こんなことですぐに嫌いになれたら楽だけどそうもいかねぇな』
美月を嫌いになることは、美月を好きになることよりも難しいかもしれない。
どうしたって君を嫌いには、なれないから。
「私もだよ。好き……隼人が大好きなの」
『俺もだよ。もう一度言うからよく聞けよ?』
美月の額に優しく口付けした隼人は彼女と目線を合わせた。
『俺の側にいてほしい』
美月の涙腺を決壊させるにはその一言で充分だった。
「どうしていつも肝心な時にめちゃくちゃ格好いいのよぉ……!」
『んー……肝心な時にいつも美月が格好つけさせてくれるから?』
泣きじゃくる美月を隼人は笑いながらあやす。
離れたくないから離れない
離したくないから離さない
泣かせてごめん
不安にさせてごめん
傷付けてごめん
いつも側にいてくれてありがとう。
夏の大喧嘩の後、隼人と美月は心に秘めた想いを理解し合いながら平穏な日々を過ごしていた。
そうして夏が終わり、秋が過ぎて、冬の訪れの12月。東京を震撼させるあの“最悪の3日間”が幕を開けた──。
エレベーターを呼び出して一階まで降りる。エントランスの前で待ち伏せしていると、疲れきった顔の美月が階段を降りて来た。
『俺の方が速かったな』
驚く美月に向けて余裕の笑みを返す。本当は笑える余裕なんてこれっぽっちもない。
せめてもの格好つけだ。
「……なんで?」
『エレベーター動いてなかったし、階段降りる音聞こえたから』
「エレベーターで先回りしたの?」
『そう。このマンションの住人は滅多に階段使わねぇから、あの時間に階段駆け降りていく奴は美月しかいないと思って。待ち伏せ』
美月は頬を膨らませ、口も尖っている。隼人が追っても追わなくても、彼女は腹を立てていたに違いない。
「……ムカつく」
『ムカつくのはお互い様だろ』
「偉そう! 俺様! ドS! 馬鹿! アホ!」
『悪口は帰ってから聞く』
精一杯の抵抗を見せる美月の腕を軽々と掴んでエレベーターまで引っ張った。無言のエレベーターの中でも隼人は美月の腕を掴んだまま離さない。
「どうして? ……どうして待ってたのよ……」
美月の小さな呟きに隼人は答えない。
どうして? ……そんなもの決まってる。
エレベーターを降りて通路を歩き、再び隼人の自宅へ。玄関を入ると靴も脱がずに隼人は美月を抱き締めた。
『ごめん。美月を不安にさせちまって……ごめんな。俺が寺沢莉央に惚れてるのは事実だ。でもそれは美月と別れてあいつと付き合いたいとか、そういう気持ちじゃない。勝手だって思われるだろうけど、俺には美月が必要なんだ』
「う……隼人……ごめんなさい。ごめんなさい……」
大粒の涙を流す美月を彼は優しく強く、腕の中に閉じ込めた。
『お前が浮気したのはショックだけど俺だって……白状すると俺も一度だけ寺沢莉央とキスした。ごめん』
「バカ! バカバカバカッ! 自分だって浮気してるじゃない! 隼人のアホ! 浮気者! 女たらし!」
『……美月の小学生みたいな悪口、けっこう攻撃力高いよな……。図星過ぎてグサグサ刺さる』
隼人はくくっと喉を鳴らして笑い、泣き腫らした美月の顔を両手で持ち上げた。
『こんなことですぐに嫌いになれたら楽だけどそうもいかねぇな』
美月を嫌いになることは、美月を好きになることよりも難しいかもしれない。
どうしたって君を嫌いには、なれないから。
「私もだよ。好き……隼人が大好きなの」
『俺もだよ。もう一度言うからよく聞けよ?』
美月の額に優しく口付けした隼人は彼女と目線を合わせた。
『俺の側にいてほしい』
美月の涙腺を決壊させるにはその一言で充分だった。
「どうしていつも肝心な時にめちゃくちゃ格好いいのよぉ……!」
『んー……肝心な時にいつも美月が格好つけさせてくれるから?』
泣きじゃくる美月を隼人は笑いながらあやす。
離れたくないから離れない
離したくないから離さない
泣かせてごめん
不安にさせてごめん
傷付けてごめん
いつも側にいてくれてありがとう。
夏の大喧嘩の後、隼人と美月は心に秘めた想いを理解し合いながら平穏な日々を過ごしていた。
そうして夏が終わり、秋が過ぎて、冬の訪れの12月。東京を震撼させるあの“最悪の3日間”が幕を開けた──。