早河シリーズ短編集【masquerade】
 12月9日、JSホールディングス本社爆破後。芝公園野球場に避難した隼人を含む社員全員に、自宅待機が命じられた。

社員達は散り散りに帰路を辿り、隼人も地下鉄の芝公園駅に足を向けていた。美月が通う明鏡大学でも爆破騒ぎがあったと聞き、心配になって美月の携帯電話に連絡しても繋がらない。

 駅へと急ぐ隼人を引き留めたのは大学の後輩の沢井あかりだった。あかりは自分がカオスの人間だと認めた上で、話があるからついてこいと隼人を誘った。

どうやら自分に話があるのはあかりではなく、寺沢莉央らしい。あかりに案内されて到着したのはリフォーム途中のビルだった。

 床はブルーシートで覆われ、室内はかすかに埃っぽい。電気も暖房もついておらず、小さな窓から差し込む太陽の光が唯一の光源だった。

一階にあかりを残して二階に上がる。一階と同じくブルーシートが敷かれた部屋に彼女がいた。窓辺に寄り添う寺沢莉央は隼人を見て口元を上げた。

『デートのお誘いに部下を使うなよ』

 半年前の夕暮れの別れ以来、二度と会えないと思っていた莉央を前にして、気の効いたセリフが浮かばない。

「あの子が自分からお使いを志願したのよ」

二人の距離が近付き、互いに触れ合える位置で隼人と莉央は向かい合った。

『沢井に聞いた。爆弾……量を変えたからあれだけで済んだけど本当は……』
「本当はあなたはあの爆弾で殺されるはずだった」
『あんたが指示して変えさせたのか?』

莉央は無言で微笑むだけ。グレージュの髪を耳にかけて彼女は頷く

『俺を殺すことがキングの命令なのに逆らって大丈夫なのかよ?』
「そうね。今頃キングは不審に思って調べさせているでしょう。調べれば爆薬の量が指示していた量の半分以下になっていることに気付く」

平然と語る莉央の両肩を隼人は掴んだ。

『なんでそんな平気そうに言うんだよ。つまりキングを裏切ったってことだろ? あんたが危ないんじゃ……』
「あなたを殺したくなかったの」

 莉央は両肩を掴む隼人の手に優しく触れて彼の手を下ろさせる。行き場のなくなった隼人の右手を莉央の両手が包み込んだ。

「あなたが死ぬのは嫌だった。……ごめんね」
『どうして謝る?』
「今のあなたは悲しそうな顔してるから」

 触れた手から伝わる莉央のぬくもりが隼人の奥底に眠るどうしようもなく、どうすることもできない感情を加速させる。
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