早河シリーズ短編集【masquerade】
結恵がコーヒーを部屋に運んでくれた。隼人はブラック、美月はカフェオレ。ブレイクタイムの合間に、二人は爆破事件が起きてからの3日間の出来事を話し合う。
「莉央さんに会ったよ。ホテルでパーティーがあってそこで……。すっごい綺麗な人だった。女優さんみたいでびっくり」
素直に莉央を褒める美月の嫌味のない言葉に隼人の口元が緩む。
「私に優しくしてくれたの。半年前のことを聞いても、人を助けるのに理由はいらないって……」
『俺にもそう言ってた。犯罪組織のクイーンのくせして変な奴だよな』
隼人は美月を後ろから抱き締める。美月も彼の背に身体を預けた。
『俺も寺沢莉央に一昨日会ったよ』
「会えたの? どこで?」
『会社が爆破された後、近くのビルに呼び出されて。少し話した』
その現場に沢井あかりがいたことは美月に伏せて、隼人は一昨日の莉央との会談を語った。
莉央が隼人を助けるためにJSホールディングスに仕掛けた爆弾の爆薬の量を変えたこと、本当はあの爆発で隼人や会社にいる大勢の人間が犠牲になっていたこと。
「また莉央さんが隼人を助けてくれたんだね」
『こっちは助けられっぱなしだ。爆薬の量を変えるくらいなら、最初から仕掛けた爆弾を外せよって言えばよかった。そうすればこんな騒ぎにもならなかったのに』
ぶつくさと小言を言ってわざと茶化す。隼人の腕に包まれている美月が身動いで隼人に顔を向けた。
「でもそれって、あのキングに逆らったってことだよね?」
『そう。多分あいつは……』
隼人は先を言い淀む。キングから解放されたばかりの美月に言うべきことではないと、咄嗟に言葉にブレーキをかけた。
「莉央さんはキングを愛してるの。キングが極悪人でも愛してるから側にいるって言ってた。莉央さんはキングのために……」
『だから止めたくても止められねぇよ。あいつは命懸けで俺を助けて、今度は命懸けでキングを裏切ろうとしてる。キングを守るために』
隼人と同じことを美月も思っていた。莉央は死を覚悟している。
「嫌だよ……なんでみんな命を懸けるの? 死んじゃったらもう会えないのに……」
『俺は寺沢莉央の気持ちもわかるよ』
涙を流す美月の目元に触れる。彼女は首を傾げて隼人を見上げた。
『愛してるから命を懸けるんだ。その人を守るためなら自分の命も惜しくないと思える。俺もそうだから。美月のためなら命懸けのことでもなんでもできる』
美月の瞳から流れた綺麗な涙。隼人も莉央も、3年前に死んだ美月の元恋人の佐藤瞬も、沢井あかりも、美月の優しい笑顔と綺麗な涙に救われた人間達だ。
君にはいつまでもそのままでいてほしい。
君のその純粋さにきっと彼女も、彼も、あの人も、みんなが救われたはずだから。
浅丘家から帰宅してしばらくして、莉央の訃報の連絡が届いた。日の暮れた東京の街は莉央の喪にでも服しているみたいに、空は闇の色に沈んでいた。
あれが最後だとわかっていたならもっと違う言葉が言えていたのに。
あれが最後だと思いたくなかったから、言えないまま、後悔が残る。
──莉央。君のことが本当はずっと好きだったよ。ありがとう。
「莉央さんに会ったよ。ホテルでパーティーがあってそこで……。すっごい綺麗な人だった。女優さんみたいでびっくり」
素直に莉央を褒める美月の嫌味のない言葉に隼人の口元が緩む。
「私に優しくしてくれたの。半年前のことを聞いても、人を助けるのに理由はいらないって……」
『俺にもそう言ってた。犯罪組織のクイーンのくせして変な奴だよな』
隼人は美月を後ろから抱き締める。美月も彼の背に身体を預けた。
『俺も寺沢莉央に一昨日会ったよ』
「会えたの? どこで?」
『会社が爆破された後、近くのビルに呼び出されて。少し話した』
その現場に沢井あかりがいたことは美月に伏せて、隼人は一昨日の莉央との会談を語った。
莉央が隼人を助けるためにJSホールディングスに仕掛けた爆弾の爆薬の量を変えたこと、本当はあの爆発で隼人や会社にいる大勢の人間が犠牲になっていたこと。
「また莉央さんが隼人を助けてくれたんだね」
『こっちは助けられっぱなしだ。爆薬の量を変えるくらいなら、最初から仕掛けた爆弾を外せよって言えばよかった。そうすればこんな騒ぎにもならなかったのに』
ぶつくさと小言を言ってわざと茶化す。隼人の腕に包まれている美月が身動いで隼人に顔を向けた。
「でもそれって、あのキングに逆らったってことだよね?」
『そう。多分あいつは……』
隼人は先を言い淀む。キングから解放されたばかりの美月に言うべきことではないと、咄嗟に言葉にブレーキをかけた。
「莉央さんはキングを愛してるの。キングが極悪人でも愛してるから側にいるって言ってた。莉央さんはキングのために……」
『だから止めたくても止められねぇよ。あいつは命懸けで俺を助けて、今度は命懸けでキングを裏切ろうとしてる。キングを守るために』
隼人と同じことを美月も思っていた。莉央は死を覚悟している。
「嫌だよ……なんでみんな命を懸けるの? 死んじゃったらもう会えないのに……」
『俺は寺沢莉央の気持ちもわかるよ』
涙を流す美月の目元に触れる。彼女は首を傾げて隼人を見上げた。
『愛してるから命を懸けるんだ。その人を守るためなら自分の命も惜しくないと思える。俺もそうだから。美月のためなら命懸けのことでもなんでもできる』
美月の瞳から流れた綺麗な涙。隼人も莉央も、3年前に死んだ美月の元恋人の佐藤瞬も、沢井あかりも、美月の優しい笑顔と綺麗な涙に救われた人間達だ。
君にはいつまでもそのままでいてほしい。
君のその純粋さにきっと彼女も、彼も、あの人も、みんなが救われたはずだから。
浅丘家から帰宅してしばらくして、莉央の訃報の連絡が届いた。日の暮れた東京の街は莉央の喪にでも服しているみたいに、空は闇の色に沈んでいた。
あれが最後だとわかっていたならもっと違う言葉が言えていたのに。
あれが最後だと思いたくなかったから、言えないまま、後悔が残る。
──莉央。君のことが本当はずっと好きだったよ。ありがとう。