早河シリーズ短編集【masquerade】
そんなことを考えて目黒駅から電車に乗り、芝公園駅に到着した。隼人が勤めるJSホールディングスは港区に本社を構えている。
街を春色に彩る桜の木の下を、美月と同様に着なれないスーツ姿の新入社員が歩いていた。
JSホールディングスも今日が入社式だ。自分の入社式はもう5年前になると思うと懐かしい気持ちになる。
『木村おっはよー』
『おはよ』
エントランスの前で同じ部署の中田が声をかけてきた。
『さっき新入社員の女の子達がお前のことチラ見して噂してた。“あの人超かっこいい!”ってさ』
『へぇ』
中田と連れ立ってエレベーターホールまで歩く最中も、ロビーにいる新入社員の女性達は隼人を目で追っている。彼女達の視線に気付いても隼人は知らないフリを決め込んでいた。
『相変わらず奥さん以外は眼中ないねぇ。奥さんも今日入社式だっけ?』
『そう。緊張して着なれないスーツ着てた。……はぁ』
『なになに? 新婚早々ケンカでもした?』
ついつい漏れてしまった隼人の溜息を聞いた中田が苦笑する。エレベーターの順番待ちの列に並び、隼人は胃の辺りを押さえた。
『違う。色々と心配で俺の方が緊張して胃が痛い』
『お前が心配しても仕方ないだろ。あれか? 大事に育ててきた子どもが独り立ちして巣立つ気分?』
『……微妙に違うけど、心境としては似たようなもん。学校と会社は違うからな。美月なら大丈夫って思ってても、やっぱり心配なんだよ』
二人は経営戦略部のある七階で降りた。先に歩いていた中田が振り向く。
『そう言えば企画部がこの春から女性向けの新プロジェクト立ち上げる話聞いた?』
『大手の広告代理店と提携して大々的に宣伝するらしいな』
『企画部と経営戦略部の窓口役は富岡主任にほぼ決定だって。ちなみに主任の補佐は木村だって噂だぞ』
『噂だろ? 俺は今のところ何も聞いてねぇよ』
経営戦略部のフロアには数人の社員が出勤していた。隼人は社員達と挨拶を交わして自分のデスクに着く。
青空と桜に見守られて始まった新年度1日目。今日も忙しくなりそうだ。
街を春色に彩る桜の木の下を、美月と同様に着なれないスーツ姿の新入社員が歩いていた。
JSホールディングスも今日が入社式だ。自分の入社式はもう5年前になると思うと懐かしい気持ちになる。
『木村おっはよー』
『おはよ』
エントランスの前で同じ部署の中田が声をかけてきた。
『さっき新入社員の女の子達がお前のことチラ見して噂してた。“あの人超かっこいい!”ってさ』
『へぇ』
中田と連れ立ってエレベーターホールまで歩く最中も、ロビーにいる新入社員の女性達は隼人を目で追っている。彼女達の視線に気付いても隼人は知らないフリを決め込んでいた。
『相変わらず奥さん以外は眼中ないねぇ。奥さんも今日入社式だっけ?』
『そう。緊張して着なれないスーツ着てた。……はぁ』
『なになに? 新婚早々ケンカでもした?』
ついつい漏れてしまった隼人の溜息を聞いた中田が苦笑する。エレベーターの順番待ちの列に並び、隼人は胃の辺りを押さえた。
『違う。色々と心配で俺の方が緊張して胃が痛い』
『お前が心配しても仕方ないだろ。あれか? 大事に育ててきた子どもが独り立ちして巣立つ気分?』
『……微妙に違うけど、心境としては似たようなもん。学校と会社は違うからな。美月なら大丈夫って思ってても、やっぱり心配なんだよ』
二人は経営戦略部のある七階で降りた。先に歩いていた中田が振り向く。
『そう言えば企画部がこの春から女性向けの新プロジェクト立ち上げる話聞いた?』
『大手の広告代理店と提携して大々的に宣伝するらしいな』
『企画部と経営戦略部の窓口役は富岡主任にほぼ決定だって。ちなみに主任の補佐は木村だって噂だぞ』
『噂だろ? 俺は今のところ何も聞いてねぇよ』
経営戦略部のフロアには数人の社員が出勤していた。隼人は社員達と挨拶を交わして自分のデスクに着く。
青空と桜に見守られて始まった新年度1日目。今日も忙しくなりそうだ。