早河シリーズ短編集【masquerade】
『また明日』
「うん。さようなら』
山手線の14番ホームに向かう美月の姿が人混みに消える。中央線のホームに足を向かわせる池田は、同じホームで待つ女性の後ろ姿に美月の面影を重ねた。
人懐っこい笑顔、触れたら気持ち良さそうな柔らかな肌、サラサラと風に流れる髪、それらは既に他の男のモノになっている。
『浅丘美月のままだったらなぁ……』
呟いた独り言は雑踏に紛れて彼以外には聞こえなかった。
目黒駅に到着した美月は駅前のスーパーで買い物をして帰宅した。隼人はまだ帰って来ていない。
「はぁー。今日も疲れた……」
スーツのジャケットを脱いでそのままベッドに突っ伏す。シャツやスカートを身に付けたままだが、今は一刻も早く横になりたかった。
いつまでもこうしてはいられない。課題のレポートや夕食の準備もある。
社会人1年目と共に、美月は主婦1年生でもある。どちらも上手く両立させるのは容易ではない。
独り暮らしをしてみたかった気持ちもないわけではなかった。けれどもし社会人1年目で独り暮らしをしていたら、疲れて帰って来たこんな日は、ひとりの寂しさと心細さを抱えてだらけた生活を送ってしまいそうだ。
疲れて帰って来ても寂しくないのは、ひとりじゃないから。仕事で疲れて帰るのは隼人も同じ。
いや、第一線で仕事を任されている隼人の方が、きっともっと疲れている。
彼が帰って来た時に温かいご飯を用意して出迎えてあげたい。
ベッドにある隼人の部屋着を手繰り寄せた。隼人がいつも着ている部屋着は彼の香りが濃く染み付いている。
「へへっ。隼人のにおいー」
隼人の部屋着を抱き締めて美月は二つのベッドの上をゴロゴロ転がって行き来する。旦那の部屋着の匂いを嗅いでにやけている自分も、かなりの変態ではないのか。
年々、隼人の変態成分に侵食されている気がする。
隼人の匂いを嗅いでパワーチャージも完了した美月は夕食の支度に取りかかった。隙間時間にダイニングでレポートを書く。
あとどのくらい経てば仕事と家事をどちらも上手く出来るだろう?
(これで子どもが生まれると育児も加わるんだよね)
そっと下腹部に触れる。その予定はまだないが、いつかはここに隼人との子どもが宿る日が来る。
「うん。さようなら』
山手線の14番ホームに向かう美月の姿が人混みに消える。中央線のホームに足を向かわせる池田は、同じホームで待つ女性の後ろ姿に美月の面影を重ねた。
人懐っこい笑顔、触れたら気持ち良さそうな柔らかな肌、サラサラと風に流れる髪、それらは既に他の男のモノになっている。
『浅丘美月のままだったらなぁ……』
呟いた独り言は雑踏に紛れて彼以外には聞こえなかった。
目黒駅に到着した美月は駅前のスーパーで買い物をして帰宅した。隼人はまだ帰って来ていない。
「はぁー。今日も疲れた……」
スーツのジャケットを脱いでそのままベッドに突っ伏す。シャツやスカートを身に付けたままだが、今は一刻も早く横になりたかった。
いつまでもこうしてはいられない。課題のレポートや夕食の準備もある。
社会人1年目と共に、美月は主婦1年生でもある。どちらも上手く両立させるのは容易ではない。
独り暮らしをしてみたかった気持ちもないわけではなかった。けれどもし社会人1年目で独り暮らしをしていたら、疲れて帰って来たこんな日は、ひとりの寂しさと心細さを抱えてだらけた生活を送ってしまいそうだ。
疲れて帰って来ても寂しくないのは、ひとりじゃないから。仕事で疲れて帰るのは隼人も同じ。
いや、第一線で仕事を任されている隼人の方が、きっともっと疲れている。
彼が帰って来た時に温かいご飯を用意して出迎えてあげたい。
ベッドにある隼人の部屋着を手繰り寄せた。隼人がいつも着ている部屋着は彼の香りが濃く染み付いている。
「へへっ。隼人のにおいー」
隼人の部屋着を抱き締めて美月は二つのベッドの上をゴロゴロ転がって行き来する。旦那の部屋着の匂いを嗅いでにやけている自分も、かなりの変態ではないのか。
年々、隼人の変態成分に侵食されている気がする。
隼人の匂いを嗅いでパワーチャージも完了した美月は夕食の支度に取りかかった。隙間時間にダイニングでレポートを書く。
あとどのくらい経てば仕事と家事をどちらも上手く出来るだろう?
(これで子どもが生まれると育児も加わるんだよね)
そっと下腹部に触れる。その予定はまだないが、いつかはここに隼人との子どもが宿る日が来る。