早河シリーズ短編集【masquerade】
昼休みに隼人は親しい同期三人と屋上で一服した。分煙化が進む社内では、屋上は愛煙家の憩いの場となっている。
隼人の新プロジェクト参加の一報は他部署にも伝わっており、ここにいる全員が周知だった。
『いいじゃねぇか。その年齢でプロジェクト任せられるのなんか木村くらいなものだ』
『そうそう。俺も一応プロジェクトのメンバー入りしたけどほとんど先輩のパシりだから』
中田の言葉に新プロジェクトを主導する企画部の馬場が頷いた。隼人は屋上の柵にもたれて憂鬱な顔で煙草をふかす。
『俺だって富岡主任のパシりみたいなものだ』
『それでも異例の抜擢だって社内で噂になってるぞ』
『せっかくの抜擢に冴えない面してるのは嫁さんといちゃつく時間が減るのが嫌だからだよなっ』
『木村は奥さん大好きだもんなー。過保護の溺愛』
隼人をからかって楽しむ高石と中田は笑い転げていた。周囲に美月のことを話すと必ず過保護だとか溺愛だと揶揄されるが、隼人としては過保護にしているつもりも溺愛の意識もなく、そう言われるのは心外だった。
(俺って過保護なのか?)
美月と出会い、美月が隣にいる日々が当たり前のこの数年で人当たりが良くなった、雰囲気が柔らかくなったとは言われる。それは、そこにいるだけで人を温かく包み込むオーラを持つ美月の影響を受けているのかもしれない。
『奥さん一筋の木村には興味ない話だろうけど、新プロジェクトと提携するエクリチュールジャパンのコピーライターが、わりとイイ女なんだよ。この前打ち合わせで見掛けた。見た目は桜田えりりん似の美人!』
他の面々はえりりんの名前に歓喜していても隼人だけはえりりんの正体がわからない。
『えりりんって誰?』
『はぁー。ほんと奥さん以外の女に興味なしだな。グラビアの桜田絵梨ちゃん。通称えりりん! 21歳のFカップ!』
馬場が自分のスマホ画面を隼人に見せる。直射日光の下で画面は見えにくかったが、グラビアのえりりんが巨乳であることは認識できた。
しかしこの、不自然に盛り上がったFカップの胸が作り物のような気がしないでもない……とは彼は口には出さなかった。
新プロジェクトに関わる広告代理店のコピーライターは、このえりりん似らしい。同期達がえりりんの話題で盛り上がる頃、隼人は話から離脱して青空の下で吸う煙草を味わっていた。
綺麗な空の下で吸う煙草が一番美味い。
後悔先に立たずとはよく言うけれど、この時に話題に挙がった“えりりん似のコピーライター”の話を、もっと真剣に聞いておくべきだったと、隼人は後々悔やむことになるのだった。
隼人の新プロジェクト参加の一報は他部署にも伝わっており、ここにいる全員が周知だった。
『いいじゃねぇか。その年齢でプロジェクト任せられるのなんか木村くらいなものだ』
『そうそう。俺も一応プロジェクトのメンバー入りしたけどほとんど先輩のパシりだから』
中田の言葉に新プロジェクトを主導する企画部の馬場が頷いた。隼人は屋上の柵にもたれて憂鬱な顔で煙草をふかす。
『俺だって富岡主任のパシりみたいなものだ』
『それでも異例の抜擢だって社内で噂になってるぞ』
『せっかくの抜擢に冴えない面してるのは嫁さんといちゃつく時間が減るのが嫌だからだよなっ』
『木村は奥さん大好きだもんなー。過保護の溺愛』
隼人をからかって楽しむ高石と中田は笑い転げていた。周囲に美月のことを話すと必ず過保護だとか溺愛だと揶揄されるが、隼人としては過保護にしているつもりも溺愛の意識もなく、そう言われるのは心外だった。
(俺って過保護なのか?)
美月と出会い、美月が隣にいる日々が当たり前のこの数年で人当たりが良くなった、雰囲気が柔らかくなったとは言われる。それは、そこにいるだけで人を温かく包み込むオーラを持つ美月の影響を受けているのかもしれない。
『奥さん一筋の木村には興味ない話だろうけど、新プロジェクトと提携するエクリチュールジャパンのコピーライターが、わりとイイ女なんだよ。この前打ち合わせで見掛けた。見た目は桜田えりりん似の美人!』
他の面々はえりりんの名前に歓喜していても隼人だけはえりりんの正体がわからない。
『えりりんって誰?』
『はぁー。ほんと奥さん以外の女に興味なしだな。グラビアの桜田絵梨ちゃん。通称えりりん! 21歳のFカップ!』
馬場が自分のスマホ画面を隼人に見せる。直射日光の下で画面は見えにくかったが、グラビアのえりりんが巨乳であることは認識できた。
しかしこの、不自然に盛り上がったFカップの胸が作り物のような気がしないでもない……とは彼は口には出さなかった。
新プロジェクトに関わる広告代理店のコピーライターは、このえりりん似らしい。同期達がえりりんの話題で盛り上がる頃、隼人は話から離脱して青空の下で吸う煙草を味わっていた。
綺麗な空の下で吸う煙草が一番美味い。
後悔先に立たずとはよく言うけれど、この時に話題に挙がった“えりりん似のコピーライター”の話を、もっと真剣に聞いておくべきだったと、隼人は後々悔やむことになるのだった。