早河シリーズ短編集【masquerade】
 美月が夕食の準備をしないまま眠りについてしまったため、木村夫妻の今夜のディナーは外食だ。歩いて行ける距離にある馴染みのビストロの料理に舌鼓を打つ最中、美月は帰宅途中に感じた胸騒ぎの話を切り出した。

話を聞いていた隼人が眉をひそめる。

『後をつけられてると感じたのはいつから?』
「今日の帰りが初めてだよ」
『帰りだけ? 行きは?』
「行きは何もなかった。帰りだけ……なんかゾワっとして」

 空の皿が下げられて食後のコーヒーの間、隼人は黙考していた。美月はデザートのフォンダンショコラを口に運ぶ。

『上野さんに相談してみよう。警察に調べてもらって何もなければ安心できるし』
「でも上野さんに迷惑じゃないかな……忙しいのに」

 警視庁捜査一課の上野恭一郎とは6年前に美月と隼人が巻き込まれた静岡の事件で知り合い、以降も懇意の仲だ。
上野は結婚式にも出席してもらうことになっていた。

『迷惑だなんて上野さんは思わない。美月に何かあってから知らせる方が、上野さんは悔やむよ。それに俺もこれから帰りが遅くなるかも』
「仕事忙しくなるの?」
『新プロジェクトの主任補佐が決まってさ。その仕事もあって定時で帰れない日もあると思う』

来週から本格的に新プロジェクトが始動する。プロジェクトが軌道に乗るまでは、今までの倍の仕事量になりそうだ。なんでもそうだが、開始前の準備が最も忙しい。

『俺のいない間に警察が美月を守ってくれるなら俺も安心できる。すぐに上野さんに連絡しよう』

 ビストロから帰宅後すぐに隼人は上野に連絡をとった。上野が警護と巡回の手配をしてくれるそうで、ひとまず安心して美月と隼人は金曜日の夜を終える。

まだ不安は拭えないが、美月の顔に戻った笑顔に隼人は安堵した。本音はずっと彼女の側にいて守ってやりたい。

誰よりも大切な君を、必ず守り抜く。
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