早河シリーズ短編集【masquerade】
4月25日(Wed)
今日は午後から新プロジェクトのオリエンテーションだ。オリエンテーションでは提携先の広告代理店、エクリチュールジャパンのメンバーも集まる。
JSホールディングス十二階の会議室にエクリチュールジャパンのメンバーが続々と入ってきた。同期の間で話題になったグラビアのえりりん似のコピーライターが誰か、隼人はすぐにわかった。
一際目立つ華やかな容姿。栗色のロングヘアーを綺麗な巻き髪にした彼女は三輪七海と名乗った。
経営戦略部の富岡主任が隼人を補佐役としてエクリチュールジャパンのメンバーに紹介した時に、三輪七海は艶やかな口元を上げて意味ありげな視線をこちらに向けていた。
(なんだ? あの女、こっちばかりじっと見て……)
オリエンテーションの最中に終始まとわりつく三輪七海の視線が薄気味悪い。オリエンテーションが終わっても、彼女が残した奇妙な感覚は隼人の中から消えなかった。
間もなく退勤時間の午後6時。今日はとりあえず定時で帰らせてもらえる。
三輪七海のことは気掛かりだが考えるのはひとまず置いて、早く美月が待つ家に帰りたい。
帰宅を急ぐ隼人の前に三輪七海が現れた。白のジャケットに膝丈のタイトスカート、身体のラインを惜しみなく誇示する彼女は、JSホールディングスのビルの前で隼人を待ち伏せしていた。
「やっと出て来た。待ちくたびれたよ。木村隼人さん」
『……エクリチュールジャパンの三輪さんでしたね。何かご用ですか?』
日の入り間近の暗がりに三輪七海の派手な顔立ちが浮かぶ。“グラビアのえりりん似”なのは顔なのか、スタイルなのか、よくわからなかった。
「私のこと覚えてない?」
『失礼ながら、今日初めてお会いしたと思いますが』
「やっぱりねぇ。昔、遊んでポイ捨てした女の顔なんて覚えてないかぁ」
不敵に微笑む七海を隼人は凝視する。派手なメイクで飾られた彼女の顔をどれだけ見ても、今日以前に七海と接触した記憶はない。
「もう7年前になる。飲み会であなたと会って、そのままホテル行ったの。私達けっこう身体の相性良くてあなたも私を気に入ってくれたから、何度か会ってるのよ。3ヶ月くらい続いたかな」
7年前なら隼人が大学3年の頃。まだ美月と出会う前の女を食い散らかしていた時期だ。
『悪いが、惚れた女の顔以外は覚えてないな。何が狙いだ?』
「わかってたけど相変わらず酷い男。そんな最低な男でも結婚できたのねぇ。まさか失敗して妊娠でもさせて責任とったってパターン?」
七海が隼人の左手薬指の結婚指輪に触れた。美月との誓いの証に無断で触れられて怒りが込み上げる。
「あなたは誰のものにもならないと思ってた。すっかり雰囲気も落ち着いちゃったね。最初は変わりすぎて別人かと思ったのよ。もう女遊びは卒業したの?」
『プライベートの話をこれ以上続けるのなら、僕は失礼させていただきます』
最後はビジネス用の笑顔を張り付けて七海を振り切った。彼女をその場に置いて、一度も振り返らずに隼人は地下鉄の駅まで歩き続けた。
今日は午後から新プロジェクトのオリエンテーションだ。オリエンテーションでは提携先の広告代理店、エクリチュールジャパンのメンバーも集まる。
JSホールディングス十二階の会議室にエクリチュールジャパンのメンバーが続々と入ってきた。同期の間で話題になったグラビアのえりりん似のコピーライターが誰か、隼人はすぐにわかった。
一際目立つ華やかな容姿。栗色のロングヘアーを綺麗な巻き髪にした彼女は三輪七海と名乗った。
経営戦略部の富岡主任が隼人を補佐役としてエクリチュールジャパンのメンバーに紹介した時に、三輪七海は艶やかな口元を上げて意味ありげな視線をこちらに向けていた。
(なんだ? あの女、こっちばかりじっと見て……)
オリエンテーションの最中に終始まとわりつく三輪七海の視線が薄気味悪い。オリエンテーションが終わっても、彼女が残した奇妙な感覚は隼人の中から消えなかった。
間もなく退勤時間の午後6時。今日はとりあえず定時で帰らせてもらえる。
三輪七海のことは気掛かりだが考えるのはひとまず置いて、早く美月が待つ家に帰りたい。
帰宅を急ぐ隼人の前に三輪七海が現れた。白のジャケットに膝丈のタイトスカート、身体のラインを惜しみなく誇示する彼女は、JSホールディングスのビルの前で隼人を待ち伏せしていた。
「やっと出て来た。待ちくたびれたよ。木村隼人さん」
『……エクリチュールジャパンの三輪さんでしたね。何かご用ですか?』
日の入り間近の暗がりに三輪七海の派手な顔立ちが浮かぶ。“グラビアのえりりん似”なのは顔なのか、スタイルなのか、よくわからなかった。
「私のこと覚えてない?」
『失礼ながら、今日初めてお会いしたと思いますが』
「やっぱりねぇ。昔、遊んでポイ捨てした女の顔なんて覚えてないかぁ」
不敵に微笑む七海を隼人は凝視する。派手なメイクで飾られた彼女の顔をどれだけ見ても、今日以前に七海と接触した記憶はない。
「もう7年前になる。飲み会であなたと会って、そのままホテル行ったの。私達けっこう身体の相性良くてあなたも私を気に入ってくれたから、何度か会ってるのよ。3ヶ月くらい続いたかな」
7年前なら隼人が大学3年の頃。まだ美月と出会う前の女を食い散らかしていた時期だ。
『悪いが、惚れた女の顔以外は覚えてないな。何が狙いだ?』
「わかってたけど相変わらず酷い男。そんな最低な男でも結婚できたのねぇ。まさか失敗して妊娠でもさせて責任とったってパターン?」
七海が隼人の左手薬指の結婚指輪に触れた。美月との誓いの証に無断で触れられて怒りが込み上げる。
「あなたは誰のものにもならないと思ってた。すっかり雰囲気も落ち着いちゃったね。最初は変わりすぎて別人かと思ったのよ。もう女遊びは卒業したの?」
『プライベートの話をこれ以上続けるのなら、僕は失礼させていただきます』
最後はビジネス用の笑顔を張り付けて七海を振り切った。彼女をその場に置いて、一度も振り返らずに隼人は地下鉄の駅まで歩き続けた。