早河シリーズ短編集【masquerade】
 朝に美月と触れ合って今日は開始のミーティングから隼人の気分は良好だった。

『お前、さっきからずっと機嫌いいな。どうした?』

隼人のあまりの機嫌の良さに隣席の中田は苦笑した。普段はポーカーフェイスの隼人が笑顔を振り撒く姿は逆に不気味だ。

『結婚っていいものだなぁと思って』
『あー、はいはい。奥さんと朝からイチャイチャしてきたわけね』
『朝にヤるっていいぞ。夜よりもヤバい。部屋が明るいから隅々まで見えてさ、恥ずかしがる姿が可愛すぎる』
『珍しく遅刻ギリギリの理由はそれかよ。28になるのに精力あり余ってるなぁ。俺も朝起きたら隣に美人の奥さんがいる生活をしてみたいもんだ』

来月に隼人は28歳になる。しかしどれだけ年齢を重ねても男同士の話のネタは酒と女とゲームと漫画、いつでも思春期の男子高校生並みの会話だ。

 彼女が欲しいと嘆く中田は主任に呼び出され、隼人は社用のパソコンに届くメールのチェック作業に専念した。
数件の業務用メールに返信を終えたタイミングで新着メールが届いた。受信先のメールアドレスを見て彼は顔をしかめる。

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 ej.nanami_miwa@……
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 ejはエクリチュールジャパンの略称。アドレスから差出人はエクリチュールジャパンの三輪七海だと一目でわかった。

エクリチュールジャパンとのオリエンテーション時に相手方に隼人は名刺を渡した。名刺には隼人の仕事用PCのメールアドレスが記載してあり、三輪七海も隼人の名刺を受け取っている。

 件名は〈先日の件について〉となっている。内容はビジネスメールを装っているが要するに、二人で会って話したいとプライベートな含みを持たせていた。

(何が先日の件についてだ)

メールの返事を返すか無視を決め込むか。JSホールディングスとしてはエクリチュールジャパンは提携先、そこの社員の三輪七海を無下な扱いはできない。
返信の内容に頭を悩ませながら隼人はパソコンをメール作成画面に切り替えた。
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