早河シリーズ短編集【masquerade】
 隼人が美月に染み付けた雄の匂いはどれだけ隠しても隠し切れない。

 あれから結局、我慢できなかった隼人と中途半端に快楽に身体が疼いた美月は、特に言葉での意志疎通のやりとりもなく身体を重ねた。何も言わなくても濡れた中に隼人が入ってきて、美月も隼人を受け入れていた。

けれど朝からしてしまった卑猥な行為が今になってとても恥ずかしくなってくる。
シャワーを浴びる暇もなく支度をして、二人で目黒駅まで全力疾走。遅刻寸前で電車に駆け込むなんて高校生以来だと隼人も美月も笑っていた。

「美月ちゃん顔赤いよ? やっぱり朝から旦那さんとラブラブしちゃったんだ! いいなぁ新婚さん」

 麻子と薫の話題は池田から美月のからかいに切り替わる。今夜は麻子と薫、池田を含めた男性社員の六人での飲み会。

隼人が牽制の対象とするのは池田達三人だ。

(池田くんが私に優しいって言われても、池田くんは皆に分け隔てなく優しいタイプだから麻子ちゃん達の勘違いな気がする)

 午後のビジネス講義の最中に美月は斜め前の席の池田を盗み見る。たまにあくびや居眠りをする社員がいる中でも、姿勢を正して講義を受ける池田は真面目の三文字がよく似合う人だ。

ただ自分が鈍感なだけかもしれない。隼人なら、こんな時にはすぐに相手の思惑を見抜いてしまえるのに。

(うーん。キングの考えそうなことなら、なんとなくわかるのになぁ……)

 こんな時、犯罪組織カオスのキングなら、どんな助言をしてくれるだろう。
そもそも男と女の仲を語るよりも、キングなら犯罪心理学でもくどくどと語りそうだ。

そんなことを考えて過ごしたビジネス講義の2時間が終わり、午後5時に研修が終了した。

 明日からは三連休、連休明けも火曜水曜の2日出社すれば、ゴールデンウィークに突入する。いつもの金曜日よりも解放感に溢れたアフターファイブが始まった。

 新宿駅前の居酒屋に研修グループの六人が集まっている。男性側はリーダーシップのあるグループのまとめ役の池田大夢、ギャグを言って場を和ませるムードメーカーの鈴川哲平、無口だが分析力と洞察力に長けた亀山紳と、個性的な三人組だった。

 1ヶ月も同じグループで研修をしていればそれなりに打ち解けるもので、普段は無口な亀山も酒が入れば少しずつ話の輪に加わる。

微妙な鈴川のギャグに見事にハマってしまった亀山が大笑いする貴重な場面を、薫が動画に収めていた。

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