早河シリーズ短編集【masquerade】
「皆ゴールデンウィーク空いてる? 急だけどこのメンバーで遊び行かない? 4日とかどう?」

 麻子の提案に一番乗りで鈴川が挙手をする。

『いいねぇ! 研修で仲良くなったメンバーでバーベキューなんてやったら青春じゃん。俺は4日空いてるよん。池田ちゃんは?』
『4日は俺も空いてる。木村さんは?』

池田は肩に手を回して絡んでくる鈴川を振り払って美月に顔を向けた。

「4日だよね……ごめんなさい。予定があって無理そう」

 自分の手帳を開いて美月は申し訳なく頭を垂らした。5月4日は隼人と結婚式の準備で出掛ける予定だ。
美月が4日は無理だと言った時の池田の反応を見て薫が笑った。

「池田くん、わかりやすく残念な顔しないでよー」
『残念な顔してた?』

池田は薫の指摘を平然とかわし、今度はわざとらしく美月から視線をそらしている。

「してたよぉ。でも麻子ちゃんごめん。私も4日は無理。6日じゃダメ?」
「ごめーん。6日は私がダメ。亀山くんは4日空いてる?」
『4日は俺も無理』

 鈴川のギャグで大笑いした亀山も今はいつものように黙々とつまみを食べていた。4日が空いているのは麻子、池田、鈴川の三人だけだ。

「三人無理だって。残念だけどバーベキューはまた次の機会にしよ。三人だけでバーベキューって淋しいもん」
『しゃーないな。じゃ、俺と池田ちゃんと麻子ちゃんでどっか出掛けようっ!』

 4日が空いている組で遊びの計画を立てる中、美月は手洗いに立った。

もうすぐ20時、予定ではこの後は二次会でカラオケに行くらしい。隼人との事前の約束で帰りが22時を過ぎるようなら、隼人に迎えの連絡をすることになっている。

 女子トイレを出て席に戻る通路の途中で亀山と遭遇した。

『そろそろ会計して出るって』
「そっか。亀山くんは二次会行く?」
『一応、行く』

ポツリポツリと言葉を交わして手洗いの方向に向かおうとした亀山が足を止めた。

『なぁ、気付いてないようだから言うけど……』
「なに?」
『池田には気を付けろよ』
「池田くんに? なんで?」
『ハァ……あんた鈍感だな。あんた以外は池田の気持ち気付いてると思う』

真っ向から鈍感と言われて少々腹は立つが、確かにその通りであるから否定もできない。

「えっと……池田くんが私を好きってこと?」
『それだけならまだいい。池田とはこれから部署が同じだろ? 一緒にいる機会も多くなると思う』

 アルコールが入っているとは言え、亀山の口数がこんなにも多い日は研修が始まった1ヶ月で初めてではないか。

『……池田はいい奴だよ。表向きは』

 意味深な言葉が騒々しい店内で重たく響く。
鋭い洞察力と分析力を持つ亀山には、他の者が見えないものが見えているのかもしれない。亀山は初めて会った時の木村隼人と似ていた。

「亀山くんて、主人に似てる。そういう鋭いところがそっくり」
『旦那も苦労するだろうな』

 呆れた笑いを返して亀山は通路の先を行った。二次会会場のカラオケ店は居酒屋から歩いて数分の場所だった。
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